はじめにこのコラムでは、原価計算に関して、さらにもう一歩踏み込んだことを書いていければと思います。ツッコミどころもあるかもしれませんが、それも含めて、これを読んでくださっている人と一緒に考え、より良くしていければいいと思っています。お手柔らかにお願いします。そんなことを言いつつ、いきなりコラムのタイトルに「理想原価」なる独自ワードが飛び出しました。このコラムでは、この「理想原価」という考え方について、書いていきたいと思います。ちなみに、この「理想原価」は、今後、新しい案件の見積もりや既存の荷主さんとの運賃交渉のために距離制運賃表を考えたり、車両別の日々収支や荷主別収支を見れるようにしていく際にも、かなり重要な考え方になってきます。「実原価」だけでは適正な運賃は考えられないそもそも、運送会社の原価計算を行い、それを運賃表などに反映していこうとするにあたっては、実際に発生した費用を集計した「実原価」を参照するだけでは不十分だと考えています。運賃を適正に算出するためには、実際に発生した原価である「実原価」だけでなく、将来的なコスト変動なども織り込んだ原価計算を行う必要があります。織り込むべき要素としては、例えば、車両取得価格の上昇、減価償却済み車両の入れ替え、賃上げによる人件費の上昇、メンテナンス費や燃料費などの変動、労働時間の短縮による稼働日数の減少などがあげられます。車両の入れ替えや待遇改善を織り込む車両取得価格の上昇や、減価償却済み車両の入れ替えについては、この数年でもトラックの新車価格は体感1.5倍ほどになっているのではないでしょうか。そうした背景の中、新しい車両を購入していくと、例えば、これまで月20万円のリース支払いだったところが月30万円のリース支払いとなり、大きく原価が上昇していくことに繋がります。ましてや、減価償却済み、すなわち支払いベースの車両費用が0円の場合は、今までは車両費用がかからないから何とかやっていけていた仕事も、車両を買い替えると大赤字になってしまうということもあるでしょう。これは別のコラム(原価計算における細かな工夫の実例)の中で述べたことにも関連してきます。したがって、「理想原価」においては、こうした車両の入れ替えや値上がりも加味をした原価設定を、現状の「実原価」を参考にして行っていく必要があります。賃上げによる人件費の上昇についても、人手不足が叫ばれる今の時代、ドライバーさんの待遇改善を考えていくことは、運送会社経営においては必須のテーマです。ただ、運送会社の場合、「もらった運賃からドライバーさんのお給料を支払う」ということになるため、その待遇改善、昇給の原資は無限にあるわけではありません。その原資をつくっていくためにも、待遇改善を見越した「理想原価」の設定を行い、運賃表に反映し、運賃交渉や新規案件の見積もりを行っていく必要があります。例えば、「実原価」としてこの1年の平均月給が35万円なのであれば、10%アップした38.5万円の月給を「理想原価」に見込む。そういうことです。例に出した10%は極端だと思うかもしれませんが、実際、2024年以降、2025年、2026年の日本企業の賃上げ率は3年連続5%を超える水準になっています。それまでも毎年2%前後の右肩上がりを続けてきていました。これはいわゆる春闘の中での話であり、遠い話のように思うかもしれませんが、現実としてそういう隣の芝生の事実があります。また、国土交通省によって定められている「標準的運賃」においても、ドライバーさんの人件費分の原価には「全産業平均の賃金」が使用されています。要するに、これは国としても「トラックドライバーの待遇を全産業並みに」と、待遇改善を図ろうとしているということです。年収にすると約520万円です。本当は賞与などもあると思いますが、単純に12で割って月給換算すると約43.5万円で、もちろん大型やトレーラー、2t車などの車種や、長距離か地場かなどで変わってくるとは思いますが、感覚的には少し高めだなと思う運送会社さんが多いのではないでしょうか。余談ですが、この人件費原価をベースに設定されている運賃だから、標準運賃は高くなるわけです。メンテナンス費用や燃料単価の高騰も織り込むメンテナンス費用という観点では、整備士の人手不足や、材料の高騰などにより、車検費用や修理費用、タイヤ代なども右肩上がりになってきていると思います。また、保有している車両の経年劣化によってもかかる修理費用はだんだんと高くなってきます。そうしたことも考慮して「理想原価」を考えていかねばなりません。燃料単価も常に変動していきますが、これも考慮に入れていかねばなりません。簡単にシミュレーションしてみると、例えば燃費3km/Lの大型トラックの場合、1日あたり300km走行するような地場配送の仕事をしたとすると、1日で100Lの軽油を使用しますが、仮に軽油が1Lあたり10円値上がりしたとすると、1日あたり1000円原価がアップすることになります。たった1000円の原価上昇でも、その日のその車両の利益で考えると、利益の数十%が吹き飛ぶといえるでしょう。したがって、この燃料単価の変動も考慮した「理想原価」を考えることは重要になってきます。ちなみに、この燃料単価の変動に関連する考え方として「燃料サーチャージ」というものがあり、国土交通省が導入を促進しています。恐らく、これを読んでいる皆さんも耳にしたことがあり、一部の荷主さんとの契約では既に導入されていることもあるかと思います。この「燃料サーチャージ」についても、現場のリアルという観点も交えて、また別のコラムで書いてみたいと思います。稼働日数をどう考えるかも重要そして、「理想原価」を考える上で重要な項目が稼働日数です。これは2つの側面で重要になります。1つは、待遇改善という側面。そしてもう1つは、荷主さんへのメリットという側面。ちなみにこれらの2つの側面は、ある意味、相反するものとなります。後者の方については、間違った伝わり方になってしまうと「そういう考えがあるから運賃が上がらないんだ」という批判をいただくことになるかもしれません。それらも踏まえた上で少し解説していきたいと思います。まずそもそも、稼働日数(稼働時間)というのは、1日あたりの固定費(1時間あたりの固定費)を考えていく上で、割り算の分母になるとても重要な数字です。この考え方次第で、運賃に反映される原価が大きく変わってきます。例えば、固定費の中でも大きな成分を占める車両費用について考えてみましょう。仮に月20万円の車両費用がかかるトラックがあったとします。これを1車両1ドライバー専属で動かしたとして、そのドライバーさんが土日祝休みで月の稼働日数が20日とします。そうすると、1日あたりの車両費用は10,000円となります。一方で、そのドライバーさんが日曜休みで土曜日も隔週で働くとすると月の稼働日数は25日で、1日あたりの車両費用は8,000円となります。さらに別のケースで、その車両を1車両1ドライバー専属ではなく、複数人のドライバーさんで乗り回しをすることで月30日稼働させたとします。その場合は、1日あたりの車両費用は6,667円となります。20日稼働で10,000円、25日稼働で8,000円、30日稼働で6,667円。稼働日数の考え方によって、1日あたりの車両費用だけでもこれだけの差額が出てくるのです。それ以外にも、駐車場代や保険代、事務所経費(販管費)、細かい話でいうとデジタコの通信費など、いわゆる固定費は他にもたくさんあります。それらについても同様に、稼働日数を何日とみなすかによって1日あたりの固定費は大きく変わってきます。さて、この例を踏まえて、まずは待遇改善という側面について考えていきましょう。そもそも、世の中の流れ的には、運送会社も「完全週休2日制」へ移行していくことが求められています。働き方改革、2024年問題など、色々とありますが、かなり端折って雑に言ってしまうと「きちんと休みを増やしていこう」ということなわけです。実際、僕は1992年生まれなのですが、ゆとり世代ド真ん中で、土曜日に学校に行った記憶があるのは小学校1年生のときだけです。2週間に1回、午前中だけ行ってました。それからというもの、土日祝休みが当たり前で、社会人になってからも土日祝休みの環境でずっと働いてきていたので、坂東市の運送会社で運送業界にかかわり始めたとき、一番最初に素朴に驚いたことは「あ、土曜日も働くんだ」ということです。いや、でもこれは僕がおかしいのではなくて、フラットに見た世間のスタンダードが、これなんだと思います。そういう世の中の大きな流れを踏まえると、先ほどの例で見た中で言うと、25日稼働(隔週土曜日勤務)というのは、完全週休2日制の22日稼働、そして祝日も休みの20日稼働へと、働く環境を変えていかねばならないわけです。人手不足だから、尚更そうした待遇改善は必要になってきます。でも、そうなると、車両費用が仮に月20万円としたときに、25日稼働ならば1日あたりの車両費用は8,000円だったところが、20日稼働で10,000円へと原価上昇することになります。この原価上昇分を「理想原価」に織り込んで運賃表をつくり、運賃交渉や新規案件の見積もりを行っていかないと、待遇改善は進んでいきません。ちなみに「標準的運賃」においては、この稼働日数(稼働時間)の部分は、週40h稼働で1年間(年間約2086時間)という、簡単に言ってしまうと毎週2日休みの完全週休2日制に基づいて原価計算がなされています。稼働率の工夫は選ばれる運送会社になるための武器しかしながら、この稼働日数の考え方は、裏を返すと先ほど述べた通り、荷主さんへのメリットにも繋げることができます。例にあげた中で言うと、車両を1車両1ドライバー専属ではなく、複数人のドライバーさんで乗り回しをすることで月30日稼働させたというようなケースがそれに該当します。この考え方をすることで、本来20日稼働で1日あたり10,000円の車両費用を、1日あたり6,667円の車両費用とすることができます。車両費用だけで見ても、原価で3,000円以上の差が出てきます。もちろん、その分多くのドライバーさんを採用したりしないといけないので、そこにかかるコストなどを考慮しないといけないというのも分かっていますが、こうした運送会社側の「稼働の工夫」によって1日あたりの固定費(1時間あたりの固定費)をコントロールして原価を下げることで、荷主さんに対する運賃のメリットを出すこともできるようになってきます。定期ルート配送などの運行シフトが組みやすいような形態では、日中と深夜の裏表で車両を動かすなどの工夫が、ややもすると上がらない運賃の温床になってしまっているということも勿論理解しています。そして、その最たる例が、いわゆる長距離の帰り荷運賃であるということも理解しています。したがって、安易な値下げを推奨すべきではないことを十二分に理解しつつ、その一方で、人手不足の背景の中で稼働を上げる工夫を運送会社が行っていくということも、これからの時代、選ばれる運送会社になっていくための1つの方法なのだと思います。「適正原価」も「理想原価」である余談ですが、これから出来上がっていく「適正原価」もある意味、国が定める「理想原価」ということです。その「理想原価」を検討していくための「実原価」の把握のために、適正原価調査票なるものの回答の要請もありました。そして、その「実原価」を踏まえ、最終的にどこに照準を合わせて「理想原価」を設定し「適正原価」を決めていくのか。この考え方次第では、現場の実態と大きく乖離した運賃表になってしまい、なかなか根付かないものになってしまうかもしれません。逆にそれでもそれがかなりの強制力を持って根付いたならば、大幅な物流コストの上昇により、急激なインフレという社会への影響が出てくる可能性もあります。あるいは、適正原価に見込まれる稼働日数の考え方によっては、先ほど述べたような「稼働の工夫」の効果が無くなってしまい、運送会社の同質化に繋がっていくということも考えられます。車両原価が適正原価よりも大幅に乖離してしまうという理由で、スカニアやボルボのトラックが売れにくくなる未来もあるかもしれません。混載の場合はどう考えるのか、といった難しい問題もあります。「適正原価」というのは、この運ぶというインフラを後世に残していくためにも必ずあるべき考え方だと思いますが、様々な観点を持って、現場の意見をしっかり届けて全員でブラッシュアップしていかないと、社会実装していくのは難しいものだと思います。