はじめにさて、このコラムでは「根拠ある運賃」という実践的に使えそうな話を取り上げます。お待たせしました。でも、実際には、別のコラムでも書いてきたあらゆることを考慮するからこそ、「根拠ある運賃」をつくることができるのです。したがって、できれば他のコラムも読んでから、このコラムをまた読み返してください。ダラダラと書いていることも、無駄な豆知識などではなく、全て必要なことです。それでは、どのようにして根拠ある運賃表を作っていくことができるのか。書いてしまうと、拍子抜けするほどシンプルです。そして、こうして根拠ある運賃設定に基づいた運賃表をつくることができるようになれば、その運賃表と現行の運賃表の差分こそ、運賃交渉で埋めるべき差分となるので、この過程を辿ることで、根拠を持った運賃交渉を行うことができるようになります。また、根拠ある運賃設定に基づく運賃表をつくることができるようになれば、新しい案件の見積もりなどにおいても、しっかりと利益を確保して、自信を持って提示することができるようになります。運賃交渉においても、新しい案件の見積もりにおいても、どの程度までならその運賃表から値下げを許容できるのかということも理論的に把握することができるようになります。交渉において、それほど心強い状態はないと思います。では、その根拠ある運賃設定の方法について、見ていきましょう。ちなみに、簡易的にするために、ここでは貸切チャーターの運行を想定して話を進めていきます。混載などの場合は、さらにもう一段階、荷物1個あたり、1パレットあたりなどで割り算して計算する必要がありますし、混載でなくても輸送したトン数などによる運賃形態などもあると思いますが、それでも基本的にはまずはこの考え方がベースになってくると思います。根拠ある運賃の計算方法別のコラム(これからの時代に必要な「理想原価」という考え方)において、「理想原価」という考え方について書きましたが、運賃設定をする際にも、この考え方に基づいて進めていきます。基本的には「1kmあたり変動費」と「1日あたり固定費」をベースに考えていきます。そう考えると、1日あたり原価の計算式は、極めてシンプルに「1日あたり原価=1日あたり固定費+1kmあたり変動費×1日の走行距離」ということになります。ちなみに、別のコラム(「原価計算」を進めるための8つのステップ)でも言及した通り、本当は「1日あたり固定費」ではなく「1時間あたり固定費」で考える方が、より精度が上がっていくのですが、実際には1日2案件や3案件を組み合わせる配車をするのは高度なので、まずは1日1案件の貸切チャーターをベースに考えて「1日あたり固定費」を軸にして考えています。とはいえ、「1日あたり固定費」を軸にして考えると不便かというとそうではなくて、例えば、2日運行の長距離の場合には1日あたり固定費×2日分として、その2日分でかかる固定費を計算することができます。あるいは、1日2案件目の運行がある場合は1日あたり固定費×0.5や、1日あたり固定費×0.7などと考えることで、固定費を調整することもできます。また、12時間拘束などで時間が長い仕事の場合は1日あたり固定費×1.2や1日あたり固定費×1.5などと調整することもできます。この長距離の2や、折り返し運行の0.5、拘束時間が長い場合の1.2などの掛け算している部分を、少し難しい表現で「固定費係数」とします。そうすると、「運送原価=1日あたり固定費×固定費係数+1kmあたり変動費×走行距離」ということになります。この「運送原価」に、適正な利益を上乗せすることで、「根拠ある運賃」を設定することができるようになります。運送原価に含めるべき走行距離はどこからどこまで?さて、ここで1つの疑問が浮上します。果たしてこの運送原価における「走行距離」は、一体どのように考えるべきなのでしょうか。この「走行距離」問題は、結構根深いと思いますし、正直、全てに当てはまる正解はないと思います。一応、先に「標準的運賃」の中で提示されている見解を書いておくと、「標準的運賃」においては、走行距離については基本的には「積地から卸地までの往復分」を原価に入れて考えるということになっています。なので、片道50kmの案件であれば、走行距離としては100km分を原価に含めて運賃設定をするということです。帰り荷がない前提で実車率50%で考えて、このようにするということです。ただし、ここでもさらに疑問が沸いて出てきます。そもそも、その片道というのは「積地から卸地までの距離」だけではなく、「車庫から卸地までの距離」で考えた方が適切な場合もあるのではないだろうか?例えば建材など、基本的に午前中の搬入がメインとなるような案件の場合は、前日の夕方に積地で荷物を積んで車庫に戻ってきて運行を終了し、翌日の朝に車庫から出発して卸地へと輸送するという流れが一般的です。その場合でも、荷主さんとの間で取り交わされている運賃表の走行距離は「積地から卸地までの距離」がベースになっていることがよくあります。それでもいいかもしれませんが、例えば積地から車庫までの距離が50km離れている場合は、「車庫から卸地までの距離」と「積地から卸地までの距離」のどちらをベースに考えるかで、結構変わってきてしまいます。また、そもそも荷主さんとの間で取り交わされている運賃表の根拠として、「走行距離は往復分に基づいた原価となっている」のか、「走行距離は片道分のみに基づいた原価となっている」のか、どちらとなっているか分からないことも多いのではないでしょうか。根拠ある運賃表をつくるには、走行距離ということ1つとっても、「車庫から卸地までの距離」と「積地から卸地までの距離」のどちらをベースに、そしてそれを「片道分」と「往復分」のどちらを原価に含めたものとなっているのか、よく考え、そして説明できるようにする必要があります。軽視できない回送にかかる原価ちなみに、慣習的に運送会社の運賃は「積値から卸値までの距離」でその「片道分」を原価として考えることが一般的になっているとよく聞きます。でも、仮に片道100kmだとしても、燃費3km/Lの大型トラックの場合、原価として考えられていないもう片道分(荷物を卸した後の分)の100kmを走行するのに、約33Lの燃料を使用します。燃料単価が1Lあたり120円だとしても、それだけで約4,000円になります。仮に運賃が50,000円だとすると、この分をしっかりと含めて原価計算をして、それをもとに運賃の設定をしていかないと、これからの時代、収支が合わなくなっていくことは容易に想像できるのではないでしょうか。なので、「標準的運賃」においても「往復分」の走行距離を原価に含めることを前提として、運賃設定がされているのだと思います。さらに言うと「車庫から積地までの距離」も、原価に含めるケースも必要であると考えます。例えば、車庫から積地までの距離が60kmあるような、ちょっと遠くに積み込みにいくようなケースを想定してみましょう。仮に燃費3km/Lの大型トラックで運行していると、それだけで燃料は20L消費し、燃料単価が120円/Lだとすると、積込に行くだけで2,400円かかっていることになります。こういうことも踏まえて、原価に含める走行距離を考えていかないと、やってもやっても赤字の案件が生まれてしまいます。もちろん、何でもかんでも荷主さんに価格転嫁ができるわけではないことも理解しています。ただ、そういうことを理解をして、根拠を持って運賃を設定していかないと、気づいた時には「もうこれ以上は続けられません」ということにもなりかねません。場合によっては、より積込場所に近い運送会社さんを紹介してあげる方が、お互いにとってメリットがあることもあります。積み込みに行くだけで原価で2,400円もかかっているのであれば、1,000円だけ手数料を差し引いて、近くの運送会社さんをご紹介する方がいい場合もあります。これを根拠を持って判断するためにも、「トラック経営の見える化」は重要になってきます。この倉庫に荷物を積みに行って、この店舗とこの店舗で荷物を卸して、というように、出庫から帰庫までのルートが毎日決まっているような案件であれば、この走行距離の部分の問題は生じにくいとは思うのですが、実際にはそうではない案件も多数あるのが運送会社の実情だと思います。例えば、フリー車両のスポット運行では、毎日のように積地や卸地が変わるし、建材の現場配送であれば、積地は同じでも、卸地が毎日違う場所になります。こういうときにも、走行距離に対して、しっかりと考えていくことが正しく原価を把握して、正しく案件の収益性を見ていくことにつながっていきます。車両や期間を統合することで「使える実原価データ」ができるところで、そもそも根拠ある運賃を作成していくために「理想原価」を考えていくにあたっては、大前提として「実原価」を出す必要がありますが、その「実原価」の算出の仕方にもポイントがあります。原価計算をしていくにあたって、どんな項目をどのように集計していけばいいか、ということについては【原価計算編】にて述べた通りですが、その集計結果をさらに統合していくことで、それぞれのケースに合わせて見るべき「実原価」を準備することができます。どういうことかというと、例えば、2t車が5台、4t車が10台、大型車が5台で合わせて20台のトラックを保有しているとします。このうち、2t車と4t車と大型車がそれぞれ3台ずつ、とある荷主Aの仕事を定期で請け負っているとします。そして、残りの車両は全てフリーで配車をしているとします。このときに、荷主Aと4t車に関する運賃交渉をする場合には、その仕事に入っている大型車3台の原価データを統合して見ていくと、よりリアルなものとなっていきます。またさらに、一定期間のデータ(例えば2025年4月〜2026年3月の1年間のデータ)を統合していくことで、より根拠として使える「実原価」を見ることができるようになります。その他にも、例えば4tのフリー車両の運賃見積をしたい場合は、フリーで走る4t車7台(あるいは、荷主Aに入っている3台も含めた4t車10台)の車両の原価データを統合することで、必要な原価データが揃います。そして、これも同様に、過去1年分などの一定期間のデータを統合することで必要な「実原価」を見ることができるようになります。このように「車両の統合」と「期間の統合」をしていくことで「実原価」を出し、それに対して車両入れ替えや賃上げ、各種原価の変動要素を踏まえて調整していくことで「理想原価」を求めていき、その「理想原価」の「1kmあたり変動費」や「1日あたり固定費」をベースに、妥当な「走行距離」を含めた運送原価を算出し、そこに適正な利益を乗せていくことで、根拠ある運賃設定ができるようになるということです。文字だけで書くと、かなりまどろっこしくなってしまったことを反省していますが、これが根拠ある運賃の設定であり、これを元に運賃交渉を行うことで、荷主さんともしっかりと話ができるようになり、新しい案件の見積もりも、しっかりと利益を確保できる見積もりを出すことができるようになります。納得度の高い運賃交渉の進め方ちなみに多くの場合は「理想原価」は「実原価」よりも高めに設定されることになるかと思いますが、そう考えると、「実原価」を割ってしまうような運賃設定は赤字案件となるので、「実原価」による運賃設定(これが最低ライン)と、「理想原価」による運賃設定(これが理想ライン)を設けて、交渉に幅を持たせることができるようになります。「最低でも、この運賃(実原価による最低ライン)を割ることができません。なぜならば〜。ただ、今後車両の入れ替え等を加味していくと、本当はこれだけの運賃(理想原価による理想ライン)をいただきたいと考えています。なぜならば〜。」というような話ができるようになるということです。もちろん色んな運賃交渉のノウハウはあると思いますが、これこそフェアな交渉であり、荷主さんにも納得度の高い根拠あるコミュニケーションとなるのではないでしょうか。「標準的運賃」や「適正原価」と比較した「自社の原価」こうして設定した運賃について、その各根拠となる数字が「標準的運賃」の根拠数値と比較してどうなのか、ということをきちんと理解しておくことも重要です。勝手ながら引用させていただきますが、国土交通省と全日本トラック協会が連名で出している「改訂 トラック輸送に係る標準的運賃の解説 ー令和6年3月告示版ー」という資料の11ページにその根拠数値が載っています。ここには、小型〜トレーラーの全国平均値が記載されているため、本来は各地域ごと・各車種ごとの根拠数値を見ることができればいいのですが、僕の探索能力ではそのデータに辿り着くことができていません。恐らく非公開情報なのだと思いますが、もし「実はここに載っているよ」などご存じの方がいれば、こっそり教えていただけると嬉しいです。さて、話を戻しますが「標準的運賃」の根拠数値は、令和6年3月告示版では、例えば、年間稼働時間は2,086時(40h/週で1年間)、年間走行距離は71,728km(月間5,977km)、車両費用は年間12,716,125円で償却年数は5年(したがって、月間の車両費用は211,935円)、年間の車検費用は265,112円、年間の一般修理費用は199,070円などとなっています。ドライバーさんの人件費については前にも書きましたが、法定福利費込みで年間6,121,075円(年収で言うと約523万円)となっています。繰り返しになりますが、このデータは小型〜トレーラーの全国平均値なので、あくまで参考地にしかなりませんが、それでもこうした「標準的運賃」の根拠となっている数値と、自社の原価データを比較することで、「標準的運賃」との差分も正しく理解をすることができます。これは、これから出来上がってくる「適正原価」についても同様のことが言えると思います。「これが適正原価だから」という説明をするだけでは、荷主さんの理解を得られることができない可能性もありますし、そもそも自社がそれで損をしているのか得をしているのか(場合によっては適正原価を提示することで損する運送会社もあると思います)も分からないという可能性もあります。したがって、「適正原価ができるから、自社では原価計算はしなくてもいい」のではなく「適正原価ができるからこそ、自社の原価を把握すべきだ」と考えた方がいいと思います。これは「トラック経営の見える化」を唱える六興実業だからこそのポジショントークに聞こえるかもしれませんが、それだけのつもりは毛頭なく、荷主さんの立場で考えても「明日からこれが適正原価だから値上げしてください」と言われても納得するのは難しいと思います。今、このタイミングで、根拠ある運賃設定を各社が自分たちでできるようになることは、運送業界の豊かな未来を正しくつくっていくためにも、とても重要なことではないでしょうか。