適正原価の算定式についてこのコラムを書いているのは2026年8月ですが、つい先月、2026年7月17日に、適正原価の設定に向けた第1回有識者検討会が開催されたそうです。その中で、今後、適正原価を決めていく上での論点が示されました。「論点」ということなので、もうこれで決定ということではないとは思うのですが、「だいたいこんな感じの考え方でいくよ」という方針が示されたということです。さて、そんな適正原価に関して、今のところ最も重要な方針は「1kmあたり変動費」と「1時間あたり固定費」をもとにして計算されるという部分だと思います。【適正原価算定式のイメージ(2026年7月17日時点)】適正原価=運賃原価+委託手数料+料金原価+燃料サーチャージ+実費運賃原価=時間当たり固定費×総稼働時間+キロ当たり変動費×総走行距離 ※時間当たり固定費、キロ当たり変動費については、地域・車種・車格ごとに表などにより別途示すことを想定※「適正原価の設定に向けた論点提示」国土交通省重要なのは「1kmあたり変動費」と「1時間あたり固定費」これまで、標準的運賃は、距離制運賃(あるいは時間制運賃)による「運賃表」として示されていました。つまり、標準的運賃は「1kmあたり変動費」と「1時間あたり固定費」をもとに、距離制(あるいは時間制)で計算したものを参考の「運賃表」として提示するものでした。今回の適正原価は、そうではなく、「1kmあたり変動費」と「1時間あたり固定費」を「原価数値表」として提示し、最終的な各運行における適正原価は、上述の「計算式」でもって計算して算出するという方針になっています。なぜそうする方針なのかというと、多様な運送業界の運賃に適応するためなのだと思います。実際、僕自身、運賃交渉のお手伝いをしたりする中で、多くの運送会社さんの運賃表を見る機会がありますが、荷主ごとにカスタマイズされた個別ルールがたくさんあります。計算の仕方や単位も荷主ごとに違い、また、高速代や荷役作業料を含めるかどうか、燃料サーチャージがあるかどうかなどの「運賃」以外の条件も様々です。ちなみに、貸切バスが先立って許可更新制になったということで、今回の「トラック適正化二法」の参考にされることがよくあります。現状、貸切バスは「下限運賃」を「キロ制運賃」と「時間制運賃」でそれぞれ定めていますが、やはり乗せるのは「人だけ」であり、かつ大型バスや中型バスなどで大体「定員も決まっている」ため、そのようなシンプルな計算式で済むのだと思います。貸切バスが乗せるのは「人だけ」で「定員も決まっている」という一方で、トラックは「様々な荷物」を載せて「効率もそれぞれの条件によって変わってくる」ということなので、より複雑になってきます。したがって、「1kmあたり変動費」と「1時間あたり固定費」の「原価数値表」をもとに「計算式」で適正原価を算出するというやり方は、こうした運送業界の実態を鑑みると、合理的な考え方なのだと思います。ただ、運送会社側に、そのルールに関する高度な理解が求められることになるのは事実です。しっかり学んで、新しいルールにキャッチアップしていかねばなりません。適正原価の導入スケジュールちなみに、今後の適正原価の導入に向けてのスケジュールは、以下のようなスケジュールになります。ちょうど今年(2026年)の春ごろに、各運送会社さんの元に届いたピンク色のアンケート用紙に回答したと思うのですが、そうしたアンケートや、今回の有識者検討会の流れを踏まえて、「2027年の春ごろ」に、「適正原価の告示」つまり「適正原価はこんなルールになりますよ。具体的に適正原価はこんな金額になりますよ。」ということが発表されるということです。そして、それから約1年後の「2028年の6月まで」に、「施行」すなわち「オフィシャルなルールとして、もう適用されますよ。待ったなしですよ。」という段階に至る、というわけです。意外と、もうすぐそこまで来ています。備えあれば憂いなし。しっかりと準備をして臨みましょう。これから必要になってくる「自社の原価」の見える化これからこの運送業界は、「運賃原価=時間当たり固定費×総稼働時間+キロ当たり変動費×総走行距離」という計算式で運賃原価を算出するというルールになっていきます。このルールに適応していくためには、まず何よりも「自社の車種ごとあるいは荷主ごと等の1kmあたり変動費」と「自社の車種ごとあるいは荷主ごと等の1時間あたり固定費」を把握することが、何よりも重要になってきます。「適正原価が示されるから、もう自社の原価計算はしなくてもよくなる」という考えも、一理あると言えばあります。もう業界のオフィシャルな金額が示されたから、それに則ればいいというのも、確かにごもっともなわけです。ただ、本当にそれでいいのか?と個人的には思います。(六興実業は「トラック経営の見える化」という原価計算のサービスを行っているため、ポジショントークのように聞こえてしまうかもしれませんが、本心からそう思います。)では、なぜそう思うのか。いくつか理由を書いていきたいと思います。まず1つ目。これはとてもシンプルな話です。標準的運賃という業界のオフィシャルな参考運賃も過去に示されましたが、それをうまく使えた運送会社は、果たしてどれだけいたでしょうか?という観点です。標準的運賃を持っていっても荷主の納得感は低かった。じゃあ、同じように適正原価を持っていって荷主の納得感が上がるという道理は一体どこにあるのでしょうか?そう考えると、結局のところ、適正原価が示されたとしても、それを「自社の原価根拠と共に示す」ということが重要になってくるのだと思います。ただ、適正原価が使い物にならないということを言いたいわけでは全くありません。むしろ、適正原価を「自社の原価根拠と共に示す」ことで正しく使えば、運送会社にとってこれ以上ない強力な武器になります。もし、現時点でもしっかりと自社の原価を把握することができていれば、今の段階からでも荷主さんとこんな話をすることができます。想像してみてください。「実は、来年の春に、適正原価のルールが決まる予定です。その後、少しの猶予を持って、再来年には、そのルールが適用されるようになります。適正原価においては、1kmあたり変動費と1時間あたり固定費をもとに適正原価が算出されるということになっているのですが、現状の実際の原価計算に基づくウチのこの車両の1kmあたり変動費と、1時間あたり固定費はこうなっています。これに基づいて計算すると、今の運賃はちょっと厳しくて、今後、必ず適正原価にあわせて運賃アップが必要になってきます。この適正原価は、これまでの標準運賃と違って、義務になるので、お互いちゃんと守らないといけないのです。そのタイミングでいきなり大幅に引き上げるのも大変だと思うので、今から段階的に、そこに向けて運賃を引き上げていくことはできないでしょうか?具体的には〜…」さらに、2027年の春ごろ以降、適正原価の具体的な金額が告示されると、荷主さんとこんな話ができます。「適正原価における1kmあたり変動費と1時間あたり固定費が示されました。この車格であれば、この地域では、〜〜といった数字になっています。ちなみに、ウチの自社の原価計算に基づく1kmあたり変動費と1時間あたり固定費はこんな数字になっています。適正原価と比較すると、ウチの実際の原価は少し低い数字になりますが、それは、適正原価が賃上げや車両の買い替え、安全に関する投資なども加味した数字だからです。今後、適正に運送事業を継続していく上では、適正原価をしっかりいただくことが必要になります。それに基づいて、この案件の運賃を計算すると、〜〜といった金額になります。この適正原価を守ることは義務になります。したがって、今年度からはこの運賃でいかがでしょうか?」どうでしょうか。これが適正原価を「自社の原価根拠と共に示す」使い方です。ここまで話をすることで、荷主さんにとっても納得感のあるものになるのではないでしょうか。整理すると、こういうことです。個人的には今後、適正原価が告示されれば、「自社の原価」と「適正原価」をセットで示すことが、重要になってくると思っています。特に、適正原価が根付くまでの移行期の初期に荷主さんから納得を得るためには、それが重要になると思います。完全に、適正原価が荷主にとっても運送会社にとっても当たり前の世界になってしまえば、自社の原価を併せて示すことも不要になるでしょう。それまでは、このルールを正しく荷主に納得してもらい、新しいルールに適応していくためにも、運送会社側の準備として、自社の原価を把握することは必要なことなのではないでしょうか。利益を守るためにも「自社の原価」の見える化は必要もう1つ、運送会社が自社の原価を把握しておいた方がいい理由があります。こちらは、運送会社の利益に直結します。例えばですが、仮に自社のトラックをドライバーが集まりやすいという理由でスカニアで揃えている場合。適正原価のルールの中で告示された、大型トラックの1時間あたり固定費が仮に「5,000円/時間」だとします。その固定費のうち、車両費用は「2,000万円の大型トラックを5年間で乗る」という想定で計算されているとすると、1年間で400万円、1ヶ月あたり約33万円、月に160時間稼働として1時間あたりにすると「約2,000円/時間」が1時間あたりの車両費用ということになります。5,000円の1時間あたり固定費のうち、約2,000円が車両費用によるものだということです。これがトラックをスカニアで揃えているとすると、そもそもの車両価格が2,000万円ではなく4,000万円と2倍になるので、1時間あたりの車両費用も「約4,000円/時間」ということになります。そうすると、適正原価に則って1時間あたり固定費を5,000円/時間として運賃計算すると、原価割れしてしまう恐れがあります。1時間あたりの車両費用の差分を加味すると、1時間当たり固定費は7,000円/時間で計算する必要があるというわけです。スカニアの例を出すと「それは贅沢品だから」的な反論があると思いますが、仮にこれが、例えば鋼材用の架装を施した大型平ボディ車だった場合だと、どうでしょうか。あるいは、精密機械を運ぶために、総輪のエアサスとゲートを装備した大型ウイング車だとどうでしょうか。つまり「適正原価」で示された原価よりも、何らかの理由で「自社の原価」が高くなるような場合には、正しくその金額を把握しておかないと、「適正原価に則って走れば赤字」というような逆ザヤ現象が起きうるということです。それを防ぐためには、荷主に対して、「自社の原価」と「適正原価」の差分を具体的に説明する必要があるわけです。差分の数値とそうなる理由が説明できて、はじめて荷主さん側が納得できる運賃になるわけです。(逆に、運送会社側がきちんとこれを説明できないと「適正原価がこうなってるんだから、この運賃でやってくれ」と言われてしまい、ある意味、適正原価の義務は遵守して「合法的に」赤字案件を飲み込まざるをえなくなってしまうう可能性すらあるわけです。)他にも、ストップアンドゴーが多いような、地場の店舗配送の案件の場合だとどうでしょうか。ストップアンドゴーが多い場合は、通常よりも燃費が悪くなるので、適正原価よりも不利になる可能性があります。仮に、適正原価における2t車の1kmあたり変動費が「40円/km」で告示されたとします。この1kmあたり変動費のうち燃料費が占める分は、「燃費8.0km/L」で「燃料単価120円/L」に基づき「15円/km」(1kmあたりの燃料費)だったとします。これが、ストップアンドゴーが多い場合、実際の燃費は「燃費6.0km/L」となっていました。そうなると、1kmあたり燃料費は「20円/km」となります。「1kmあたりで5円」分、原価に差が出ます。たった5円ですが、されど5円です。1日200km走るとすれば、1000円の差になります。月にすると2万円以上。年間で25万円もの差になります。仮に4台が同じ仕事をしていると、年間で100万円です。この「差」を根拠をもって説明できるかどうかで、その運送会社の利益は大きく変わるというわけです。どうでしょうか。以上が、適正原価が告示されたあとも「自社の原価」を把握すべき理由です。適正原価を運送会社経営の武器にしていくためにも、その準備として「自社の原価の見える化」を行っておくことは、これからの時代、重要になってくるのではないでしょうか。