標準的運賃は「実車率50%」2026年8月6日の物流ウィークリーの紙面に、こんな見出しの記事がありました。「適正原価 実車率50%を見直し 標準的運賃の半値の恐れも」別に危機感を煽ったりするためにゴシップ的に取り上げたいわけではないのですが、この記事の内容は、前段の章(「1時間あたり固定費」が突きつける転換点)とも関連してくる話だと思います。簡単にこの物流ウィークリーの記事の内容を解説します。標準的運賃の距離制運賃においては、「実車率50%」として、帰り荷分の走行距離も原価に含めて運賃計算するという形になっていました。全日本トラック協会が発行している「トラック輸送に係る標準的運賃の解説」の中でも、「1運行当たり運送距離について、復荷がない運行でも、帰路に要する必要な原価の確保を前提とするため、実車キロ程(運賃表のキロ程)に2を乗じて算出した距離を設定。(復路は空車を前提に算出)」「1運行 実車率50%に設定して計算」と書いてあります。「適正原価」の制度のもとでは、この「実車率50%」「復路は空車を前提」という部分に見直しがかかる可能性があり、そうすると距離制運賃表として出してみた場合の運賃表は「標準的運賃の距離制運賃表の半値」ぐらいになってしまうのではないか、ということが書いてあります。(繰り返しになりますが、適正原価は1kmあたり変動費と1時間あたり固定費をもとにした計算式で算出されるので、あくまでこの場合の適正原価の距離制運賃表は「モデル運賃」になります。そうした「モデル運賃」の提示の必要性については、国土交通省も一定の理解を示しています。)尚、この話は、取材に基づく可能性を述べたまでなので、現段階(2026年8月)では、確定情報ではありません。あくまで参考情報です。詳しくは、紙面の記事をご覧ください。さて、ここからは、この記事を踏まえた僕の個人的見解を書きます。もう一度言いますが、適正原価がどうなっていくのかというゴシップネタを披露したいわけではないので、あくまで、そういう観点もあるということに対する見解を述べます。結論から言うと、僕は「確かに、そうなる(実車率50%の前提に見直しがかかる)のが自然な流れだよな」と思っています。何故ならば、別のコラム(適正原価によって生じる転換点)でも述べてきた通り、「1時間あたり固定費」で適正原価を算出するということになると、これまでは「ドライバー付き派遣業」としてやってきていた運送会社も、「時間貸し・スペース貸し不動産業」のモデルへと転換していかなければいけないという流れになるからです。「時間貸し・スペース貸し不動産業」の観点からすると、当然、「帰り荷は自ら埋めるもの」であり、実車率や積載率を高めるための取り組みこそ、独自の強みになるからです。そこを「復路は空車を前提」で、荷主に負担してもらう道理はないわけです。(逆に、「ドライバー付き派遣業」的な動きで、あくまで「その日」の仕事を埋めるだけの配車組みをする発想であれば、「復路は空車を前提」で、その分の原価も荷主に負担してもらわなければやっていけません。)また、日本全体で見ても、復路分の原価まで「適正原価」に含めて荷主が面倒を見るということになると、とんでもなくモノの値段が跳ね上がってしまうことにも繋がります。結局ここでも、「ドライバー付き派遣業」から「時間貸し・スペース貸し不動産業」への転換が迫られるわけです。待ったなしです。最終的に、この「実車率」の話が、適正原価の制度の中でどのような着地点になるかは、このコラムを書いている2026年8月時点ではまだ分かりません。一つだけ言えることは、あくまでゴールは、そこで働くドライバーさんの待遇改善に繋げ、そして、この物流インフラを持続可能なものとするということです。そのためには、運送会社にとっても、そして荷主にとっても、無理をしない設計でなければなりません。お互いが無理をしない設計にするためには、運送会社側のアップデートが必要な部分もあるはずです。共にしっかりと準備をしていきましょう。適正原価と「回送料金」について適正原価に関する第2回有識者検討会の資料の中では、「実車率」と「回送料金」についての整理もされていました。これまでも「運送原価の中にどこからどこまでの走行距離を含めるべきなのか?」という点については、別のコラム(「根拠ある運賃」の設定方法)にも書いています。ぜひ、読んでみてください。さて、そんな中で国土交通省が出している資料の中には、こんな言及がありました。「適正原価がトラック運送事業の適正な運営に当たり一般的に負担する必要がある費用であることを踏まえると、回送時の運送コストもこれに含まれると解されることから、荷物を運送しているか否かにかかわらず、車両を走行させた距離・時間を対象に適正原価を算定することになると考えられる。」「この場合、トラック事業者は、回送距離分も含めた適正原価を荷主等から回収する必要があるため、その回収がより容易となるよう、通達等において、回送距離分の適正原価の回収方法(実車距離分の運賃に含める、回送料金として請求する等)を参考として示すこととしてはどうか。」これは、トラック運送会社にとっては、とてもありがたい内容です。「回送時のコストも適正原価に含めるべきだ。」「回送料金分を荷主にどう説明して、どうやってもらったらいいかは、今後参考として提示していくよ。」ということなわけです。さて、この「回送距離分」を含めるべきだということについては、つまり図示するとこういうことになります。車庫・積地・卸地の3箇所が三角形になるとして、その中のどの「辺」の部分を原価に含めるのか。積地から卸地の分を往復分含め、さらにこの回送分(車庫から積地)を含めることで、往復分+回送分で「3辺分」を原価に含めることができるようになります。回送料金問題も「実車率」が高い会社が有利になるさて、これは運送会社にとってはありがたい、と書きましたが、実はよく見ると、こんな続きが書いてありました。「なお、取引実態を踏まえれば、回送距離分の適正原価を運賃への上乗せや回送料金として荷主等から収受するよりも、帰り荷を確保して実車距離分の運賃として収受する方が、運賃等の交渉が容易である。このため、トラック事業者には、帰り荷を確保して実車率を高めようとするインセンティブが働くのではないか。」これは、一体どういうことなのでしょうか。整理してみると、こういうことです。「適正原価」は、個別の運送契約における「最低運賃」を定めるものではないため、一定期間で「適正原価」以上の運賃を確保できているのであれば、すなわち、例えば「帰り荷」等を見つけて稼いでいるのであれば、片道・往復どちらの距離に基づいて運賃を計算してもよいし、回送距離分も請求不要になる。つまり、「個別の運送契約」においては、この下の3つのパターン、どのパターンで原価を計算して運賃を請求しても、一定期間のトータルで原価割れをしてなければ問題ないということです。「回送距離も請求するべき」と言ってくれていたと思いきや、「自社で実車率を高められる会社は、別に回送距離は必ずしも請求する必要はないよ」と言っているわけです。つまり「適正原価」に基づいて、上の3パターンの(他のケースもあるかもしれませんが)の走行距離に基づいた運賃が、存在しうるというわけです。荷主から見たときに、どのパターンの運送会社を選ぶかというと、答えは明白です。別のコラム(適正原価によって生じる転換点)でも言及しましたが、この回送距離などの観点においても、これからの運送会社には「実車率を高める努力」が必要になってきます。あるいは、もしそれが難しいのであれば、「回送距離分」や「積地から卸地の往復分」を原価に含めて運賃を計算する妥当性を、しっかりと荷主に説明をして、その分の運賃をいただくだけの説明力をつけなければなりません。いずれにしても、「適正原価」というものは、手放しにそのルールが運送会社の助けになるというわけではないのです。やはり、しっかりと「適正原価」に備えていく必要がありそうです。