はじめに適正原価に備えて、どんなことを準備しておけばいいのでしょうか。このコラムでは、その中の1つ、そして最も重要であろうことについて、書いてみたいと思います。まず、結論から書きます。「1kmあたり変動費や1日あたり固定費(1時間あたり固定費)に関して、自社の車両別(車種別・荷主別)の「実原価」を把握し、そして「理想原価」を設定し「適正原価」が公表された時に、それらと「運賃」の位置関係がわかるようにする」これこそが、これからのトラック運送会社が適正原価に備えてすべき準備の中で、最も重要なことだと思います。どういうことか。これから解説していきたいと思います。尚、別のコラム(適正原価は「最低運賃」ではない)で「適正原価は個別の運送契約の運賃・料金水準を規定するものではない」という解説をしていますが、以下は、あえて「個別の運送契約に適正原価を当てはめて」考えています。また、理想原価については、別のコラム(これからの時代に必要な「理想原価」という考え方)でも詳しく説明しています。もしよければ、読んで復習してみてください。代表的な3つのパターンで考えてみるさて、それでは、「1kmあたり変動費や1日あたり固定費(1時間あたり固定費)に関して、自社の車両別(車種別・荷主別)の「実原価」を把握し、そして「理想原価」を設定し「適正原価」が公表された時に、それらと「運賃」の位置関係がわかるようにする」とは、一体どういうことなのか。図で書くと、この意味がわかりやすいと思いますので、ちょっと何パターンか図解してみました。(この3つの図以外にも、いろんなパターンがあると思いますが、全部個別に解説するには限界がるので、割愛します。)つまりこういうことです。まず、一番左のパターン。これは、現状の運賃は、「実原価」を上回って、黒字案件ということです。ただし、理想原価には届いていないので、車の買い替えや人件費アップなど、しっかりと安定して経営していくには十分ではない運賃ということです。そこに、適正原価という新たな物差しが加わると、運賃が「実原価」を超えていて、黒字案件だけど「適正原価」は下回っているので、その「適正原価」以上に引き上げていかねばならない、ということになります。例えば、車の減価償却が終わっていて0円だからこそ成立している案件では、こういうケースもあると思います。このケースは、運送会社にとってはありがたいケースです。「適正原価」水準まで運賃が引き上がると、車両の入れ替えをしないままだと単純に利益は増えますし、そうすることで、車両の買い替え余力が生まれます。制度のおかげで「理想原価」に近づくということです。次に、真ん中のパターン。これはまず、現状の運賃が「実原価」を下回っていて赤字案件ということです。それでいて、尚かつ、「適正原価」がさらにそれより低い水準に設定されてしまったというパターンです。これは「適正原価」はクリアしている運賃だから法的には問題ないけれども、自社の原価に照らし合わせると赤字案件だから、少なくとも「実原価」の水準に運賃を引き上げていかねばならない、ということになります。そんなケースあるの?と思うかもしれませんが、例えば、鋼材車で架装をしっかりしていて、車両費用が「適正原価」よりも高い場合や、手積み手卸しなど仕事が大変で、その分、給与水準が「適正原価」よりも高くなっているケースなど、考えられうるケースは意外とあります。このケースでは、運送会社はしっかりと「自社の原価(実原価)」を示して、それが「適正原価」よりも高くなる理由を説明して、運賃交渉に臨まねばなりません。今後は「適正原価はこの水準だから、この運賃でできるよね」と荷主さんから言われるケースも、少なからず生じる可能性があります。そうなったときに、「自社の原価(実原価)」をしっかりと説明できる準備をしていないと、痛い目を見る可能性があるということです。最後に、一番右のパターン。これは、現状の運賃が「理想原価」以上にいただけていて、車両の入れ替えや、賃上げ、修理代の高騰などを想定しても、しっかりと安定して経営をしていける、ありがたい案件ということです。このケースに、「適正原価」という物差しが加わると、こんなリスクがあります。上の真ん中のパターンでも解説しましたが、荷主さんから「適正原価っていうのがありますが、それに合わせた水準だと、この運賃でできるはずなんですけど、ちょっと値下げしてもらってもいいですか?」という話を持ちかけられる可能性があるわけです。真ん中のパターンは「実原価割れの赤字案件」なので、根拠で示して納得してもらうということができますが(でなければ、仕事が継続できない)、このパターンは「理想原価以上の美味しい案件」なので、その運賃を維持するには、ある意味「選ばれる運送会社」でなければならないんだと思います。「ちょっと高いけど、この会社が安定して、トラックを綺麗に維持して、いいドライバーさんを確保して、ウチの仕事を継続してくれていることがありがたい」と荷主さんに認めていただくことで、「適正原価」以上の付加価値を認めてもらえるということになるのでしょう。いかがでしょうか。ここまでの3つのパターンで見てきたように、このような形で、「実原価」「理想原価」と「運賃」、そして「適正原価」を並べることで、自社のその案件の立ち位置の分析ができるようになります。そして、上の3パターンを見ただけでもわかるように、各個別の案件によって、置かれている状況と、そこから取るべき対策は変わってきます。備えあれば憂いなしです。まずは、自社の「実原価」を把握し、そして「理想原価」を把握する。この「適正原価」に備えて、この準備を今の段階からやっていきましょう。