トラック運送会社の管理会計六興実業では「トラック経営の見える化」という手法を推奨しています。「トラック経営の見える化」とは一体何なのか?平たく言うと、六興実業が推奨しているトラック運送会社の管理会計手法なのですが、1つポイントがあります。別のコラム(決算書だけではつかめない運送会社の経営実態)で、トラック運送会社の経営の実態をしっかりと掴んでいくためには、トラック1台ごとの収益状況などを細かく見ていくしかない、と述べましたが、「トラック経営の見える化」においては、それ以外の部分も可視化するようにしています。一般的に、運送業界においては、昨今の「標準的運賃」や「適正原価」の流れなどもあり、いわゆる「原価計算」が注目されており、全日本トラック協会でも原価計算にかかわるセミナーテキストなどを発行したりしています。これはとても勉強になるので、標準的運賃の解説書とあわせて読むことをオススメします。ただ、その「原価計算」だけではトラック運送会社の経営実態を掴むことはできません。もう少し多角的な視点で、トラック運送会社の経営を見る必要があると考えています。トラック・ドライバー・案件で成り立つ運送会社経営そもそも、「トラック運送会社」の経営は、「トラック」を取得し、その車両に「ドライバー」が乗り、「案件」がつくことで収益を生み出します。つまり、経営は「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの要素で成り立っていると言えます。前段で「トラック運送会社」の解説をしましたが、倉庫などの複雑な要素は省き、「トラックを日々動かして稼ぐ」ということにフォーカスするからこそのシンプルな図式です。トラック運送会社の経営は、この「トラック」「ドライバー」「案件」の3つの要素がバランスよく回ることでうまくいきます。例えば、「案件」としては利益が出ていても、「ドライバー」の給与が低く、拘束時間が長いと、離職リスクが高く、決して良い状態とは言い切れません。あるいは、「案件」としては利益が出ていても、「トラック」に目を向けると、実際には減価償却が終了している車なため車両費用は0円で、燃費も悪化傾向にあり、メンテナンス費用も高くなってきているとなれば、車両の買い替えが必要な時期にあり、車両を買い替えると利益が残らなくなる可能性もあるため、これも決して良い状態とは言い切れないでしょう。給与をあげてドライバーさんの待遇改善を図ると、その分、短期的な目線では利益は減ってしまいます。でも、今の時代は、ドライバーさんこそ重要な運送会社の経営資本であるため、そこへの投資を惜しむことはできません。トラックを買い替えると、その分、利益が減るかもしれない。でも、これまた重要な商売道具なので、ドライバーさんの働く環境としても、その投資を惜しむことはできません。なので、「トラック」「ドライバー」「案件」の3つ要素をうまくバランスさせながら、日々改善を行い、投資を行い、よりよく回していかなければならないのです。これこそがトラック運送会社の経営の本質だと思います。「トラック」に関して見るべき指標では、もう少し細かく「トラック」「ドライバー」「案件」のどういった指標を見ていく必要があるのか、考えてみましょう。尚、この見るべき指標はあくまで現段階で想定できるものであり、今後もアップデート、追加していく可能性が大いにあると考えています。まず、「トラック」について見るべき指標。これについては、色々な観点はあると思いますが、シンプルに「燃費」と「劣化度」と「資産状況」を把握できるようにするべきだと考えています。「燃費」という指標自体は、トラックという商売道具を扱う上で当然のように耳にしている、簡単なものだとは思いますが、これを毎月のように追いかけていくと、思った以上に、同じ車種でもドライバーさんの乗り方や、高速か下道のどちらをよく使うかといった走行ルートなどでも明らかな違いが出ることが多いです。また、同じ大きさの車両でもメーカーや車種によってもはっきりと違いが出ます。正確に計測することは難しいかもしれませんが、メンテナンスの仕方やタイヤなどによっても差は出てくるのでしょう。仮に軽油の金額が120円/Lで、1日あたり300km走行するとした場合、燃費が5km/Lか6km/Lという1km/Lの違いでも、1日あたり1200円の燃料費の違いが出ます。1日あたりの運賃が4万円だとすると、利益率にして3%もの違いが出ることになるので、馬鹿にはできない差になります。でも、この「燃費」にしっかり着目をして日々改善しようとしている運送会社は、正直少ないように思えます。そこまで踏み込んで車両の管理やドライバーさんへの指導を行うことの難しさも、六興実業自ら運送会社を経営するなかで痛感しているのでよく分かりますが、本当にこうした細かい部分の改善の積み重ねが運送会社の利益になるので、小さなことからコツコツとやっていきたいものです。次に「劣化度」について。これは、トラックに長年乗っていくなかで、車検費用も年々上昇し、突発的な修理が発生することによる一般修理費もだんだん大きくなってくるなど、メンテナンスにかかる費用があがっていくと思いますが、その上昇をしっかりとウォッチすべきだと考えています。毎月毎月、3ヶ月点検や車検、一般修理費や部品代などに、どの車両でいくらかかって、それぞれどのような内容のメンテナンスを加えたのかということを取りまとめ、きちんと見える化できている会社は意外に少ないと思います。トラック運送会社の経営は難しい、と言いましたが、正直、この「トラック」にまつわる部分はかなり難しいと思います。例えば、新車で購入してからもう8年乗っているトラックがあったとします。半年前にマフラーの交換で80万円かけたばかりだったにもかかわらず、次はエンジンの修理の必要が出てきて100万円かかるという見積が出てきました。果たして、このとき、エンジンを修理するのか、廃車にしてしまうのか。もちろん、今からすぐにかわりの車両を調達できるわけではないので、予備車の状況にも判断は左右されます。荷主さんからの仕事は変わらず明日以降もあり、何とかしてこなさないといけないため、その車両を修理に入れるか否かの判断はすぐにしなければなりません。結局これを、えいやっ!と決めるしかないのが、多くの場合における運送会社の経営なんだと思います。でも、ここに「年間いくらの修理費用になったら買い替えの目安にしよう」とか「この部分とこの部分の修理が出てきたら買い替えの目安にしよう」といった、そういった「劣化度」の判断軸があれば、少しは判断の助けになると思います。だから、「劣化度」をちゃんとウォッチしようということなのです。そして「資産状況」について。トラック運送会社の経営は、前段の決算書の話で見たように、トラックという1台あたり数千万円もする資産を扱うもので、その減価償却の状況などによって大きく影響が生じるものなので、トラック1台ごとの「資産状況」を把握しておくことは、とても重要です。簡易的に解説すると、まずリース契約なのか、購入なのか。リース契約の場合は、リース契約の契約期間と月々の支払額、そしてメンテナンスリース契約の有無や残価、支払い残高といった契約内容をしっかりと把握しておくことが重要です。購入の場合は、現時点の簿価と、会社ごとの減価償却方針に則った将来の償却予定額を把握しておくことが重要です。そして、できれば、このトラックは今いくらで売れる可能性があるのか?ということも定期的に把握できれば最高だと思います。こうすることで、先ほどのトラックの買い替えの判断のときにも「資産状況」を参照することができるようにもなります。今ならこのトラックはいくらで売れるけど、現時点のリースの支払いは終わっているのか?償却は終わっているのか?終わっていないなら簿価はいくらなのか?そういった部分がパッと一目で分かるようになっていることも、大きな金額の判断タイミングにおいては、少なからず助けになるのではないでしょうか。「ドライバー」に関して見るべき指標では、「ドライバー」について見るべき指標には何があるか。これは「待遇」と「労働環境」だと考えます。トラックと同様に、ドライバーさんも運送会社における重要な経営資本です。その「待遇」と「労働環境」を適切に向上させていくことは、これからのトラック運送会社の経営において必須です。人手不足が叫ばれる環境だからこそ、尚のことです。なので、それらの指標をしっかりとウォッチし、自社のいい部分も足りていない部分も、認識をして改善を図っていくことが重要だと思います。まず「待遇」については、より細かく言うと、自社のドライバーさんの「給料」とそれと同じような条件(車種や仕事内容など)の周辺の運送会社さんの「給料」を比較して見てみることをオススメします。採用において、SNSを活用するなど、色んな手法が流行していますが、もちろん見せ方を整えて「知られる」ことも大事ではありますが、結局のところ「条件」をしっかりと整えることが何より重要です。自社が周辺の会社と比較をして、「選ばれる条件」になっているのかということを、しっかりと相対的に把握することが重要になってくるわけです。そして、可能であれば車両ごとの収益計算に基づいて「給与上昇可能性」まで把握できると尚良しです。そのトラックの今の利益水準であれば、いくらくらい給与アップにまわすことができるのか?ということを知ることは、これからの時代、重要になってくると思います。逆に言うと、今の利益水準ならば給与アップの原資がないことをしっかりと認識して、運賃交渉することも重要です。繰り返しますが、トラック運送会社においては、ドライバーさんこそ重要な経営資本です。なので、その待遇を改善しようとウォッチしていくことは、何よりも大事だと考えます。そして「労働環境」については、拘束時間や残業時間、勤務日数などをしっかりとウォッチしていきましょう。仕事内容(手積手卸や、ピッキングの作業の有無、荷待ちが長い、深夜時間帯があるなど)についても把握できるとより良いと思います。こうした時間や仕事内容といった「労働環境」と「待遇」がしっかりと割に合っている状態なのかということを経営指標として観測し、気を配ることが大事だと思います。これらがアンバランスでドライバーさんが割を食ってしまっている状態は、放置していても解決しません。新しいドライバーさんを採用するためにも、そして今いるドライバーさんに長く働いてもらうためにも、常により良い状態を目指して改善をしていく姿勢が大事だと思います。「案件」に関して見るべき指標最後に「案件」について見るべき指標を考えていきます。これはものすごくシンプルで、各トラックごとの売上と各種費用、そして利益の状況をちゃんと見ていこうということです。毎月毎月、トラック1台ごとの売上と費用、そして利益を算出する。これこそがトラック運送会社の経営において、最も重要なことです。ちなみに、「荷主別収支」の算出や「車両別日次収支」の算出といった、より発展的な経営指標もあると思いますが、これについてはまた他のコラムで解説します。こうした経営指標を導き出すためにも、まずは「トラック1台ごとの月々の収支」を算出することに取り組むべきだと考えます。そして、そのうえで「1kmあたりの変動費」と「1日あたり(1時間あたり)の固定費」まで出すことが重要になってきます。これが、いわゆる「原価計算」と呼ばれるものです。既存の荷主さんへの運賃交渉や、新規案件の見積のための自社の運賃表(タリフ)の作成を適切な論理に基づいてきちんと行っていくためにも、「トラック1台ごとの月々の収支」を算出し、そしてそこから「1kmあたりの変動費」と「1日あたり(1時間あたり)の固定費」をウォッチできるようにすることは、避けては通れない道になります。さて、この「原価計算」や運賃表(タリフ)の作成については、それだけでかなりの解説が必要になってまいりますので、これもまた別のコラムで大いに語っていきたいと思います。ということで、長くなりましたが、ここまでが六興実業が考える「トラック経営の見える化」で見るべき指標についての話です。「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの観点で、様々な指標をウォッチしていきながら、トラック運送会社の経営の手綱を握る。そのためのヒントになれば何よりです。