はじめに別のコラム(「トラック経営の見える化」について)で、「トラック経営の見える化」という、トラック運送会社の経営に必要なコックピットの作り方について語ってきましたが、果たして、仮にこの面倒くさいことをやり遂げて、しっかりと数値で把握ができるようになった結果、一体どのようなメリットがあるのというのでしょうか。少し考えてみたいと思います。まず、大きな効用として、以下の6つメリットが考えられると思います。①運賃交渉に使える②新規案件の見積(適切な運賃表)に使える③各種コストの適正化(コスト削減)に使える④トラックの買い替え判断に使える⑤ドライバーの待遇改善に使える⑥これからの事業承継に使える運賃交渉や運賃表作成に活用できる1つ目の「運賃交渉に使える」というのは、言わずもがなです。しっかりと「トラック1台ごとの月々の収支」が明確になり、「1kmあたりの変動費」や「1日あたり(1時間あたり)の固定費」が分かることで、根拠に基づいた運賃交渉ができるようになります。ただ単に今の運賃と大きく乖離した「標準運賃表」を見せたり、燃料代の高騰やトラック価格の高騰、最低賃金の上昇などを理由に運賃交渉をしても、荷主さんは「それがどの程度、この運行の原価に影響しているのか?果たして運行の原価は一体いくらなのか?」ということに関してピンときません。でも確かな根拠をもって示すことで、フェアに交渉ができるようになります。ビジネスはwin-winの構図が重要になります。だからこそ、トラック運送会社側も、誠実に計算をして示すべきだと思います。軽油の暫定税率の廃止で「運賃の値下げ」の要求があると話題になっていますが、それが起こってしまうのもある意味当然で、結局何がどの程度、運賃に含まれているのかが分かりにくいからこそ、「軽油が下がったら運賃も下げてほしい」という安直な要求が起こるわけです。それは、「軽油やトラックの車両費用が上がったから運賃を上げてほしい」というあいまいな運送会社からの要求の裏返しでもあるわけです。2つ目の、「新規案件の見積(適切な運賃表)に使える」という点でも、それは同様です。この1つ目と2つ目の部分に関しては、別のコラムでもより詳しく解説したいと思います。コスト削減や待遇改善にも活用できる3つ目の、「各種コストの適正化(コスト削減)に使える」という点については、トラックごとの月々の収支や、各種費用が明確になることで、何にいくらかかっているのかが分かってきます。そして、それが「業界の相場」と比較して高いのか、あるいは安いのか、ということまで見えてくると、コストを適正化することも可能になってきます。4つ目の「トラックの買い替え判断に使える」や、5つ目の「ドライバーの待遇改善に使える」という点は、前章で述べた通りです。「トラック経営の見える化」により、単なる原価計算のみならず、「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの要素の各指標をしっかりとウォッチできる体制をつくることで、トラックとドライバーさんという運送会社にとって大事な経営資本をうまく活用することにも繋がっていきます。ちなみに、僕は前職で様々な業種の給与制度の設計のコンサルティングなども手掛けていたのですが、運送会社や製造業の給与制度設計は非常に難しかった記憶があります。理由は「給与をどれくらいまで上げられるか分からない」からです。例えば、不動産の仲介業や人材紹介業をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんが、こういった粗利率が高く、人件費が原価に含まれないような業態は、極端な話、給与水準をある程度「どんぶり勘定」的に引き上げてしまっても、経営上、さほど問題がないケースが多いのです。一方で、運送会社や製造業などは、粗利率が低く、加えてその原価にドライバーさんや工員さんの人件費が含まれるような業態であるため、給与を上げる判断はかなりシビアになってしまいます。給与アップがそのまま原価率の向上、すなわち粗利率の低下に直結するため、「どの程度給与を上げても利益的に問題がないのか?」ということをしっかりと見る必要があります。これからの時代は、ドライバーさんの待遇改善を常に進めていくことが重要になってきます。そうなってくると、給与制度の設計の際に「給与原資の配り方を変える」だけでなく「給与原資を増やす」という考えを組み込んでいかなければ、待遇改善は実現できません。この後者の「給与原資を増やす」ということを考えていくときに、まさに「トラック1台ごとの月々の収支」といった点を勘案することが非常に重要になってくるわけです。それを見ることで「あとどれくらい、ドライバーさんの給与を引き上げることができるか?」といったことが具体的にイメージできるようになってくるわけです。このドライバーさんの待遇改善にどう「トラック経営の見える化」を活かしていくのか?という点については、また別のコラムにて、少し説明をしていきたいと思います。事業承継をするときにも「見える化」は必要6つ目の「これからの事業承継に使える」という点も、実はかなり重要です。前段にて、運送会社の経営実態はPLやBSだけでは掴めないという話をしました。にもかかわらず、一般的な事業承継の1つの形になりつつある、M&A仲介の市場においては、PLとBSをもとにした企業評価によって、その運送会社の価値がつけられます。もちろん、それは1つの側面としては正しいので、そこに文句をつけるわけではありません。でも、本当にそれだけで、自社を正しく見てくれるのであろうか?と問われると、答えは間違いなくNOだと思います。自分たちの会社を正しく見てもらうためにも、「トラック経営の見える化」を行うことは重要です。そして、M&A仲介などを用いた第三者承継ではなく、身内での事業承継においても同じくそれは重要です。一般的に、運送会社は売上2~3億円程度の会社であっても、数千万~1億円程度の借入があることが多いです。そんな会社を引き継ぐ息子さんや娘さん、あるいは社員さんは、どれだけの心の準備が必要でしょうか。安心して引き継ぐためにも、PLやBSという雲をつかむような状態だけでなく、正しく地に足のついた「トラック経営の見える化」による経営実態の把握があったほうがより良いでしょう。ある意味当たり前のことを言ったまでではあるかもしれませんが、これらが「トラック経営の見える化」、トラック運送会社の経営において、きっちりと「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの軸で数字を捉えて、経営のコックピットを持つことの効用なのです。