はじめにみなさん、はじめまして。六興実業株式会社の段林です。僕は2016年に東京大学を卒業し、新卒で中小企業向けのコンサルティング会社に入社し、2019年からは社員研修や人事評価制度等のコンサルティングを手掛ける子会社を立ち上げて、その子会社の社長を務めていました。2021年末にその会社を退職して独立し、フリーランスとして地方の中小企業のコンサルティングなどを手掛けていましたが、2022年11月、縁あって茨城県坂東市の運送会社(車両台数20台程度)の代表取締役に就任することとなりました。これが僕の運送業界との出会いです。そもそも、新卒で入社した会社を退職した後、なぜフリーランスの期間があったかというと「実業」への憧れがあったからです。「コンサル」っていうと、机上の空論っぽく感じる人がたくさんいると思いますが、それこそ「そのノウハウがあるなら自分たちで経営すればいいのに」っていうことを、それとなく言われた経験は、僕自身、何度もありました。ぐうの音も出ない、耳の痛い本質だと思います。だから、自分で起業をするときには「コンサル」ではなく、「実業」を自ら手掛けようという思いがありました。なので、自ら「実業」を手掛けるための準備期間として、フリーランスの期間がありました。運送会社を立ち上げるにも、介護施設を立ち上げるにも、「実業」と呼ばれる領域で起業するには、かなり多くの元手と諸々の手続き的な準備が必要になるからです。紙1枚で始められる「コンサル」とは大違いです。そして、もう1つ「実業」への強い関心がありました。新卒で入社した会社で、業種や地方問わず、色んな中小企業と出会う機会があったのですが、そこで気づいた1つの真実があったのです。それは「“人手不足”という言葉は、日本全体、業界全体で見るとその通りだが、個別企業で見ると、当てはまらないことがある」ということです。3K(きつい・汚い・危険)と括られるような業種であっても、人手に全く困っていない、応募すればどんどん人が集まるいい会社はたくさんありました。運送業界でもそれは同様だと、この目で見てきてさらに強く感じました。シンプルな事実として、これは「経営力」による差だと思います。もちろん色んな環境要因があるので、一概に言えない部分もあると思いますが、ここを認めることからしか、前向きな日々は始まりません。政治や世の中のせいにしても、何も変わらない。じゃあ、ちゃんと考えてみようじゃないか。「経営力」というテーマと向き合ってみようじゃないか。自ら「実業」に挑み、自分なりの回答を出してみようじゃないか。これが、僕の人生のテーマです。そんなこんなで、「実業」のなかでも運送業界との縁ができ、僕の人生は動き出しました。そして、気付けば2023年の10月に、六興実業株式会社という会社を立ち上げていました。「実業領域で、六方よし経営を実現する」という思いを込めた社名です。2025年の10月から、実運送を手掛ける株式会社北総運輸(車両23台)をグループに迎え、まさに今現在、自ら「実業」に挑み、「経営力」というテーマに向き合っています。僕たちは、トラック運送会社が豊かになり、そこで働くドライバーさんの給与が上がったり、待遇改善に繋がったりすることを目的として、六興実業という会社をやっています。そのための「経営力」というテーマについて、つらつらと書いてみました。正解のない経営という道なので、色んな意見があると思いますが、是非、読んでみてください。導入編そもそも「物流会社」と「運送会社」は全く違う色々書いていくにあたって、まず、ここからきちんと整理しておきたいと思います。「物流会社」と「運送会社」って、そもそも全く別物だということです。世の中のニュースを見たり、それこそ物流・運送業界の外部の方々とお話をすると、大抵、この部分の認識のズレがあります。もう少し言ってしまうと、ここに、個人事業主がメインとなって宅配などを手掛ける軽貨物事業者の話も同じ枠組みで入ってきて、緑ナンバーの一般貨物事業者の話と混同されてしまっています。ちなみに、世の中の認識がズレていることが悪いと言いたいわけではないです。世の中からすると、それぐらい「モノを運ぶ」という業界のことを大きくとらえるのは自然なことだからです。でも、経営をしていく上では、「物流会社」と「運送会社」は別物であると、分けて考えなければ、色々と間違ってしまうと思います。ここからは、世の中的に存在している各種用語の「定義」とズレがある表現も出てくるかもしれませんが、お許しください。まず、ものごとをシンプルにするために、「物流会社」とは「倉庫を持っている会社」、そして「運送会社」とは「トラックしか持っていない会社」と定義づけてみましょう。じゃあ、倉庫1つだけ持っているトラック30台の会社は物流会社なのか?とか、倉庫もあるけどトラックも200台ある会社は運送会社じゃないのか?とか、色んな反証が出てくるのはもちろん理解しています。でも、シンプルに言ってしまうと、まずこの分け方をベースにして、「トラックしか持っていない会社で、トラックを日々動かして稼ぐのが運送会社である」というのが、一番分かりやすいと思います。そしてここから重要なのは、「倉庫の有無」という形式よりも、「トラックを日々動かして稼ぐ」という「稼ぎ方の性格」に着目すべきということです。分かりやすくするために、あえて超大手物流会社を出します。例えば、日本通運さんは、「トラックを日々動かして稼ぐ」という考え方で経営しているかというと、答えはNOだと思います。彼らは大量の倉庫を保有し、陸海空様々な輸送手段との連携や、幹線輸送を駆使して、「荷主さんのモノを適切に扱い、適切に届ける」ということに価値を発揮しています。その中には、倉庫保管から、仕分けなどの出庫作業、チャーター便や路線便の手配から、自社での配送まで、様々な手段が含まれています。これらの手段の選定やオペレーションなどの諸々を含めて「物流費」として荷主さんから費用をいただくというのが、超大手物流会社のビジネスです。じゃあ一方で、そんな複雑なことを中小の運送会社がやっているかというと、多くの会社において、答えはNOだと思います。極めてシンプルに、「4tウイング車で、ここからここまで運んで、いくら」という運賃の積み上げで「トラックを日々動かして稼ぐ」ことを生業にしていると言えると思います。僕はよく「運送会社はSES(システムエンジニア派遣)で、物流会社はSIer(システム受託開発)」というたとえ話をしています。ちょっと分かりにくいかもしれないので言い換えると、「運送会社は職人で、物流会社はゼネコン」ということだと思います。「ビルを建設する」ということに対して、その中の水道工事や足場工事を1日いくらという人工で請け負うのが職人(≒運送会社)で、ビルを建設することそのものを受注するのがゼネコン(≒物流会社)ということです。荷主さんから「モノを運ぶことにかかわる全て」を受託して動くのが物流会社で、「モノを運ぶことのうち、A地点からB地点までトラックで届けること」を請け負うのが運送会社であるということです。何を回りくどく分かり切ったことを書いているんだと思う人が多いかもしれませんが、僕はこの業界で、こうした概念を踏まえて「物流(ロジスティクス)」という言葉を意識的に使っている会社とそうでない会社がいるとHPや色んな表現を見て日々感じていますし、逆に、「運送(トランスポート)」という言葉を意識的に選んでいる会社がいるということも感じています。この「意識的な使い分け」が大事だと思っています。そして、僕は意識的に「物流」という言葉を使うことを避けています。というよりも、「物流」という領域に踏み込むことを避けています。何故かというと、難しすぎるからです。そう言ってしまうと、「運送」が簡単だと言っているみたいに聞こえますが、そういうわけではありません。繰り返しますが、「物流」が難しすぎるのです。倉庫のこと、海上輸送のこと、鉄道輸送のこと、路線便のこと、あらゆることを熟知していないと、最適な提案ができないのが「物流」です。そんなものは、運送業界にかかわり始めてまだ数年の素人の僕には到底できません。トラックの運転免許すらも持っていないわけですから。厳密に言うと、「物流会社」と「運送会社」をきっぱりと二分することは無理だと思います。トラックしかもっていない会社はシンプルに運送会社と言えますが、先述の通り、倉庫1つだけ持っているトラック30台の会社は物流会社なのか?という疑問のあがる会社も、例えば倉庫まるまる1つとトラック20台分はほとんど1つの荷主さんの仕事を請け負っていて出荷作業を行っているとなると、「物流会社」的な性格が強いと言えると思いますし、逆に、倉庫は賃貸でまるまる大手物流会社に貸していて、トラックはその倉庫とは関係のない仕事をチャーターで請けてやっているとなると、「運送会社」であると言えると思います。倉庫もあるけどトラックも200台ある会社も、倉庫で預かって在庫管理まで行うような「物流会社」的な側面も一部の荷主さんに対してはある一方で、スポットや定期でトラックだけの仕事を請けている「運送会社」的な側面もあるはずです。そんなことを踏まえて、六興実業は「トラック運送会社」という表現を使っています。「トラック運送会社」というのは、つまり、物流会社的な側面よりも運送会社的な側面が強い、「トラックを日々動かして稼ぐ」ことを中心としている会社のことです。物流会社は様々な要素が絡み合って複雑ですが、「トラック運送会社」は少しだけシンプルになる。シンプルだけど奥深い。さて、次の章からは、そんな「トラック運送会社」の経営についてもう少し考えてみましょう。「トラック運送会社」の経営は難しい「トラック運送会社」の経営は、「物流会社」と比較するとシンプルだと言いましたが、じゃあ簡単なのかというと、そうではありません。そもそも論で言うと、見るべきポイントと細かさが全く変わります。例えば、ビルの建設にあたって元請けである大手ゼネコンは、1000億円の総工費で受注します。それを、基礎工事や鉄骨工事、内装工事や外装工事などへと振り分けていきます。さらに、その内装工事のなかでも、壁材や床材の材料費、そして内装職人さんの工賃など、細かく振り分けられていきます。じゃあゼネコンが、ビル建設における細部の費用まで把握しているかというと、恐らくそうではないでしょう。内装工事やさんが、職人さんの工賃と、内装の壁材や床材の材料費を払って、いくら儲かっているかというところまでは見ていないはずです。それと同様に、物流会社も、荷主さんから大きな金額の物流費を預かる中で、協力会社のトラック1台ごとに儲かっているかという部分までは目が行き届いていないことが多いはずです。でも、「トラック運送会社」は、自社のトラックが1台ずつ、儲かっているか儲かっていないか、その1運行が儲かっているか、儲かっていないかというところまで目を配らなければならない。というより、それが何よりも「トラック運送会社」の生命線になる。「トラック運送会社」と「物流会社」では見るべき細かさが違うのです。さて、そんな風に細かく見ないといけない「トラック運送会社」ですが、昨今は追い打ちをかけるように経営が難しくなってきています。そもそも商売道具の根幹であるトラックの購入費用が大きく値上がりしています。感覚的には、ここ数年で1.5倍近く上がってきているのではないでしょうか。そして、部品価格の高騰や整備士の人手不足の影響も相まって、車両の整備費用も跳ね上がっています。直近は、暫定税率の廃止などにより落ち着きを見せていますが、2025年の前半は、燃料単価も大きく上昇していました。さらには、ドライバー不足でトラックの稼働に空きが出てしまったり、2024年問題による働き方の見直しによりトラックの稼働日数も減少に向かうなど、売上にもマイナス方向の影響が出てしまう環境に置かれているのが現状です。そして、物流二法の改正が決定し、「許可更新制」の導入により、小規模な運送会社などにとってはさらにシビアな環境になっていくことが予想されています。そんな中「適正原価」という言葉が躍り、その設定が果たして吉とでるのか凶とでるのか、固唾を飲んで見守る日々です。ただでさえ、そんな厳しい環境にいるにもかかわらず…。2000万円、3000万円もするトラックを買って、1日数万円の運賃を稼ぎ、そこから燃料代や修理代、人件費や車両費用を払えば、手元に残るのは数千円。下手したらマイナスの仕事もあるかもしれない。ドライバーさんが辞めてしまったら、小規模な運送会社は死活問題で、トラック1台の稼働がまるまるストップしてしまう。燃料代は毎月変動し、何か故障があれば、百万円もの修理費用が吹き飛ぶこともある。だから、「トラック運送会社」の経営は、とても難しい。難しいからこそ、細かくコントロールしていかなければならない。「トラック運送会社」の経営には、コックピットが必要である。色んな指標をしっかりとウォッチしながら、微調整をして、修正していかなければならない。真っ暗闇のなかを何の計器もなく飛行機を飛ばすことができないのと同様に、トラック運送会社もコックピットなしでは経営できないはずである。ただでさえ難しいのに、感覚だけに頼っていては、もっと難しい。トラックの状態、ドライバーさんの状態、そして案件の状態。あらゆることに気を配って、日々きちんと管理していかなければならない。じゃあどうすればいいのか。次の章から、少しずつその手法について語ってみたいと思う。「トラック運送会社」はPLやBSだけでは経営実態が掴めないまず、経営の指標と言えば、一番最初に頭に思い浮かぶのは決算書のトップに来る財務諸表である「損益計算書(PL)」と「貸借対照表(BS)」でしょう。確かに、この損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)は、トラック運送会社の経営状態をウォッチする上では、重要な参考指標になります。でも、それだけで十分に経営状態がクリアになるかというと、実際にはそうではないと思います。ここから先は、専門家の方が見ると甘い説明もあるかもしれませんが、ご容赦ください。分かりやすい例を挙げてみます。例えば、トラック20台、売上2億円、営業利益1000万円で横ばいの運送会社があったとします。この会社が今期、期初に2000万円のトラックを1台、現金で一括購入して古い車両と入れ替えをしました。果たして、このとき、決算はどうなるでしょうか?というケースです。色んな細かい想定すべき条件はありますが、事業用トラックの法定耐用年数を4年として定率法で処理すると、その年に1000万円の減価償却を行うこととなり、結果的に、この会社の売上は2億円、営業利益は0円の決算となります。一方で、もし仮に、同じトラックを5年リースで契約していたとすると、リースに含まれる金利などの細かい条件を無視すれば、この年に払うリース料は400万円で、決算は売上2億円、営業利益600万円となります。同じトラックを取得して、同じように1年間使用していたとしても、損益計算書(PL)の出来上がりは大きく変わります。もっとマニアックに行くと、償却方法の届出を提出して、その会社が独自に8年定額法で償却する設定にしていたとすると、これまた売上2億円、営業利益750万円となります。このように、トラックというかなり金額の大きい資産を運用する事業形態であるトラック運送会社の決算書は、正直言って、トラックの取得方法(リースか購入か)や減価償却のスタンスによって、大きく見た目が変わってしまいます。繰り返しますが、細かく専門的に見ると色々ツッコミどころはある例だと思うのですが、シンプルに考えるとこういうことが起こるのです。じゃあEBITDAというのがあってだな…、ということで、減価償却費を足し戻したりして考える会計指標もありますが、実はこれだけでは、リース契約の分を見極められない可能性があります。前述の例で言うと、購入(減価償却)の場合は、どのような償却スタンスであってもEBTDA1000万円となって揃いますが、リース契約の場合は勘定科目上「賃借料」や「リース料」と処理されていて、EBITDA600万円となってしまうこともあります。これも厳密に言うと、ファイナンスリースなのかオペレーティングリースなのかなどによっても変わってくる部分なのですが、一旦細かな言及は置いておきます。貸借対照表(BS)も、パッと見ただけでは実態を掴むことができません。例えば、減価償却が終わって簿価1円になっている、初年度登録から6年が経過した大型トラックがあったとします。この場合、貸借対照表(BS)の試算の部の左下、固定資産のところには1円で計上されています。でも、実際にその大型トラックを中古市場で売りに出すと、数百万円の価格が付きます。簿価は1円でも、時価は数百万円になってしまうというわけです。色々と小難しいことを言いましたが、結局何が言いたいのかというと、決算書を見ただけでは、その運送会社の経営実態は正直よく分からないよ、ということです。もちろん、大まかに赤字であるとか黒字であるとか、債務超過であるとかそうでないとか、そういうことは分かるので、無視できないものであるのも事実ですが、実態を掴めるものでないこともまた事実だと思います。さて、ではどうすればいいのか?ここで登場するのが「管理会計」です。トラック運送会社の経営の実態をしっかりと掴んでいくためには、トラック1台ごとの収益状況などを細かく見ていくしかないのです。「トラック経営の見える化」について六興実業では「トラック経営の見える化」という手法を推奨しています。「トラック経営の見える化」とは一体何なのか?平たく言うと、六興実業が推奨しているトラック運送会社の管理会計手法なのですが、1つポイントがあります。先ほど、トラック運送会社の経営の実態をしっかりと掴んでいくためには、トラック1台ごとの収益状況などを細かく見ていくしかない、と述べましたが、「トラック経営の見える化」においては、それ以外の部分も可視化するようにしています。一般的に、運送業界においては、昨今の「標準運賃」や「適正原価」の流れなどもあり、いわゆる「原価計算」が注目されており、全日本トラック協会でも原価計算にかかわるセミナーテキストなどを発行したりしています。これはとても勉強になるので、標準的な運賃の解説書とあわせて読むことをオススメします。ただ、その「原価計算」だけではトラック運送会社の経営実態を掴むことはできません。もう少し多角的な視点で、トラック運送会社の経営を見る必要があると考えています。そもそも、「トラック運送会社」の経営は、「トラック」を取得し、その車両に「ドライバー」が乗り、「案件」がつくことで収益を生み出します。つまり、経営は「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの要素で成り立っていると言えます。前段で「トラック運送会社」の解説をしましたが、倉庫などの複雑な要素は省き、「トラックを日々動かして稼ぐ」ということにフォーカスするからこそのシンプルな図式です。トラック運送会社の経営は、この「トラック」「ドライバー」「案件」の3つの要素がバランスよく回ることでうまくいきます。例えば、「案件」としては利益が出ていても、「ドライバー」の給与が低く、拘束時間が長いと、離職リスクが高く、決して良い状態とは言い切れません。あるいは、「案件」としては利益が出ていても、「トラック」に目を向けると、実際には減価償却が終了している車なため車両費用は0円で、燃費も悪化傾向にあり、メンテナンス費用も高くなってきているとなれば、車両の買い替えが必要な時期にあり、車両を買い替えると利益が残らなくなる可能性もあるため、これも決して良い状態とは言い切れないでしょう。給与をあげてドライバーさんの待遇改善を図ると、その分、短期的な目線では利益は減ってしまいます。でも、今の時代は、ドライバーさんこそ重要な運送会社の経営資本であるため、そこへの投資を惜しむことはできません。トラックを買い替えると、その分、利益が減るかもしれない。でも、これまた重要な商売道具なので、ドライバーさんの働く環境としても、その投資を惜しむことはできません。なので、「トラック」「ドライバー」「案件」の3つ要素をうまくバランスさせながら、日々改善を行い、投資を行い、よりよく回していかなければならないのです。これこそがトラック運送会社の経営の本質だと思います。「トラック」「ドライバー」「案件」の3つの要素についてでは、もう少し細かく「トラック」「ドライバー」「案件」のどういった指標を見ていく必要があるのか、考えてみましょう。尚、この見るべき指標はあくまで現段階で想定できるものであり、今後もアップデート、追加していく可能性が大いにあると考えています。まず、「トラック」について見るべき指標。これについては、色々な観点はあると思いますが、シンプルに「燃費」と「劣化度」と「資産状況」を把握できるようにするべきだと考えています。「燃費」という指標自体は、トラックという商売道具を扱う上で当然のように耳にしている、簡単なものだとは思いますが、これを毎月のように追いかけていくと、思った以上に、同じ車種でもドライバーさんの乗り方や、高速か下道のどちらをよく使うかといった走行ルートなどでも明らかな違いが出ることが多いです。また、同じ大きさの車両でもメーカーや車種によってもはっきりと違いが出ます。正確に計測することは難しいかもしれませんが、メンテナンスの仕方やタイヤなどによっても差は出てくるのでしょう。仮に軽油の金額が120円/Lで、1日あたり300km走行するとした場合、燃費が5km/Lか6km/Lという1km/Lの違いでも、1日あたり1200円の燃料費の違いが出ます。1日あたりの運賃が4万円だとすると、利益率にして3%もの違いが出ることになるので、馬鹿にはできない差になります。でも、この「燃費」にしっかり着目をして日々改善しようとしている運送会社は、正直少ないように思えます。そこまで踏み込んで車両の管理やドライバーさんへの指導を行うことの難しさも、六興実業自ら運送会社を経営するなかで痛感しているのでよく分かりますが、本当にこうした細かい部分の改善の積み重ねが運送会社の利益になるので、小さなことからコツコツとやっていきたいものです。次に「劣化度」について。これは、トラックに長年乗っていくなかで、車検費用も年々上昇し、突発的な修理が発生することによる一般修理費もだんだん大きくなってくるなど、メンテナンスにかかる費用があがっていくと思いますが、その上昇をしっかりとウォッチすべきだと考えています。毎月毎月、3ヶ月点検や車検、一般修理費や部品代などに、どの車両でいくらかかって、それぞれどのような内容のメンテナンスを加えたのかということを取りまとめ、きちんと見える化できている会社は意外に少ないと思います。トラック運送会社の経営は難しい、と言いましたが、正直、この「トラック」にまつわる部分はかなり難しいと思います。例えば、新車で購入してからもう8年乗っているトラックがあったとします。半年前にマフラーの交換で80万円かけたばかりだったにもかかわらず、次はエンジンの修理の必要が出てきて100万円かかるという見積が出てきました。果たして、このとき、エンジンを修理するのか、廃車にしてしまうのか。もちろん、今からすぐにかわりの車両を調達できるわけではないので、予備車の状況にも判断は左右されます。荷主さんからの仕事は変わらず明日以降もあり、何とかしてこなさないといけないため、その車両を修理に入れるか否かの判断はすぐにしなければなりません。結局これを、えいやっ!と決めるしかないのが、多くの場合における運送会社の経営なんだと思います。でも、ここに「年間いくらの修理費用になったら買い替えの目安にしよう」とか「この部分とこの部分の修理が出てきたら買い替えの目安にしよう」といった、そういった「劣化度」の判断軸があれば、少しは判断の助けになると思います。だから、「劣化度」をちゃんとウォッチしようということなのです。そして「資産状況」について。トラック運送会社の経営は、前段の決算書の話で見たように、トラックという1台あたり数千万円もする資産を扱うもので、その減価償却の状況などによって大きく影響が生じるものなので、トラック1台ごとの「資産状況」を把握しておくことは、とても重要です。簡易的に解説すると、まずリース契約なのか、購入なのか。リース契約の場合は、リース契約の契約期間と月々の支払額、そしてメンテナンスリース契約の有無や残価、支払い残高といった契約内容をしっかりと把握しておくことが重要です。購入の場合は、現時点の簿価と、会社ごとの減価償却方針に則った将来の償却予定額を把握しておくことが重要です。そして、できれば、このトラックは今いくらで売れる可能性があるのか?ということも定期的に把握できれば最高だと思います。こうすることで、先ほどのトラックの買い替えの判断のときにも「資産状況」を参照することができるようにもなります。今ならこのトラックはいくらで売れるけど、現時点のリースの支払いは終わっているのか?償却は終わっているのか?終わっていないなら簿価はいくらなのか?そういった部分がパッと一目で分かるようになっていることも、大きな金額の判断タイミングにおいては、少なからず助けになるのではないでしょうか。では、「ドライバー」について見るべき指標には何があるだろうか。これは「待遇」と「労働環境」だと考えます。トラックと同様に、ドライバーさんも運送会社における重要な経営資本です。その「待遇」と「労働環境」を適切に向上させていくことは、これからのトラック運送会社の経営において必須です。人手不足が叫ばれる環境だからこそ、尚のことです。なので、それらの指標をしっかりとウォッチし、自社のいい部分も足りていない部分も、認識をして改善を図っていくことが重要だと思います。まず「待遇」については、より細かく言うと、自社のドライバーさんの「給料」とそれと同じような条件(車種や仕事内容など)の周辺の運送会社さんの「給料」を比較して見てみることをオススメします。採用において、SNSを活用するなど、色んな手法が流行していますが、もちろん見せ方を整えて「知られる」ことも大事ではありますが、結局のところ「条件」をしっかりと整えることが何より重要です。自社が周辺の会社と比較をして、「選ばれる条件」になっているのかということを、しっかりと相対的に把握することが重要になってくるわけです。そして、可能であれば車両ごとの収益計算に基づいて「給与上昇可能性」まで把握できると尚良しです。そのトラックの今の利益水準であれば、いくらくらい給与アップにまわすことができるのか?ということを知ることは、これからの時代、重要になってくると思います。逆に言うと、今の利益水準ならば給与アップの原資がないことをしっかりと認識して、運賃交渉することも重要です。繰り返しますが、トラック運送会社においては、ドライバーさんこそ重要な経営資本です。なので、その待遇を改善しようとウォッチしていくことは、何よりも大事だと考えます。そして「労働環境」については、拘束時間や残業時間、勤務日数などをしっかりとウォッチしていきましょう。仕事内容(手積手卸や、ピッキングの作業の有無、荷待ちが長い、深夜時間帯があるなど)についても把握できるとより良いと思います。こうした時間や仕事内容といった「労働環境」と「待遇」がしっかりと割に合っている状態なのかということを経営指標として観測し、気を配ることが大事だと思います。これらがアンバランスでドライバーさんが割を食ってしまっている状態は、放置していても解決しません。新しいドライバーさんを採用するためにも、そして今いるドライバーさんに長く働いてもらうためにも、常により良い状態を目指して改善をしていく姿勢が大事だと思います。最後に「案件」について見るべき指標を考えていきます。これはものすごくシンプルで、各トラックごとの売上と各種費用、そして利益の状況をちゃんと見ていこうということです。毎月毎月、トラック1台ごとの売上と費用、そして利益を算出する。これこそがトラック運送会社の経営において、最も重要なことです。ちなみに、「荷主別収支」の算出や「日毎収支」の算出といった、より発展的な経営指標もあると思いますが、これについてはまた【発展編】にて解説します。こうした経営指標を導き出すためにも、まずは「トラック1台ごとの月々の収支」を算出することに取り組むべきだと考えます。そして、そのうえで「1kmあたりの変動費」と「1日あたり(1時間あたり)の固定費」まで出すことが重要になってきます。これが、いわゆる「原価計算」と呼ばれるものです。既存の荷主さんへの運賃交渉や、新規案件の見積のための自社の運賃表(タリフ)の作成を適切な論理に基づいてきちんと行っていくためにも、「トラック1台ごとの月々の収支」を算出し、そしてそこから「1kmあたりの変動費」と「1日あたり(1時間あたり)の固定費」をウォッチできるようにすることは、避けては通れない道になります。さて、この「原価計算」や運賃表(タリフ)の作成については、それだけでかなりの解説が必要になってまいりますので、この後【原価計算編】という章を設けて、大いに語っていきたいと思います。ということで、長くなりましたが、ここまでが六興実業が考える「トラック経営の見える化」で見るべき指標についての話です。「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの観点で、様々な指標をウォッチしていきながら、トラック運送会社の経営の手綱を握る。そのためのヒントになれば何よりです。「トラック経営の見える化」がもたらす効用ここまで「トラック経営の見える化」という、トラック運送会社の経営に必要なコックピットの作り方について語ってきましたが、果たして、仮にこの面倒くさいことをやり遂げて、しっかりと数値で把握ができるようになった結果、一体どのようなメリットがあるのというのでしょうか。少し考えてみたいと思います。まず、大きな効用として、以下の6つメリットが考えられると思います。①運賃交渉に使える②新規案件の見積(適切な運賃表)に使える③各種コストの適正化(コスト削減)に使える④トラックの買い替え判断に使える⑤ドライバーの待遇改善に使える⑥これからの事業承継に使える1つ目の「運賃交渉に使える」というのは、言わずもがなです。しっかりと「トラック1台ごとの月々の収支」が明確になり、「1kmあたりの変動費」や「1日あたり(1時間あたり)の固定費」が分かることで、根拠に基づいた運賃交渉ができるようになります。ただ単に今の運賃と大きく乖離した「標準運賃表」を見せたり、燃料代の高騰やトラック価格の高騰、最低賃金の上昇などを理由に運賃交渉をしても、荷主さんは「それがどの程度、この運行の原価に影響しているのか?果たして運行の原価は一体いくらなのか?」ということに関してピンときません。でも確かな根拠をもって示すことで、フェアに交渉ができるようになります。ビジネスはwin-winの構図が重要になります。だからこそ、トラック運送会社側も、誠実に計算をして示すべきだと思います。軽油の暫定税率の廃止で「運賃の値下げ」の要求があると話題になっていますが、それが起こってしまうのもある意味当然で、結局何がどの程度、運賃に含まれているのかが分かりにくいからこそ、「軽油が下がったら運賃も下げてほしい」という安直な要求が起こるわけです。それは、「軽油やトラックの車両費用が上がったから運賃を上げてほしい」というあいまいな運送会社からの要求の裏返しでもあるわけです。2つ目の、「新規案件の見積(適切な運賃表)に使える」という点でも、それは同様です。この1つ目と2つ目の部分に関しては、後ほど【原価計算編】でより詳しく解説したいと思います。3つ目の、「各種コストの適正化(コスト削減)に使える」という点については、トラックごとの月々の収支や、各種費用が明確になることで、何にいくらかかっているのかが分かってきます。そして、それが「業界の相場」と比較して高いのか、あるいは安いのか、ということまで見えてくると、コストを適正化することも可能になってきます。4つ目の「トラックの買い替え判断に使える」や、5つ目の「ドライバーの待遇改善に使える」という点は、前章で述べた通りです。「トラック経営の見える化」により、単なる原価計算のみならず、「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの要素の各指標をしっかりとウォッチできる体制をつくることで、トラックとドライバーさんという運送会社にとって大事な経営資本をうまく活用することにも繋がっていきます。ちなみに、僕は前職で様々な業種の給与制度の設計のコンサルティングなども手掛けていたのですが、運送会社や製造業の給与制度設計は非常に難しかった記憶があります。理由は「給与をどれくらいまで上げられるか分からない」からです。例えば、不動産の仲介業や人材紹介業をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれませんが、こういった粗利率が高く、人件費が原価に含まれないような業態は、極端な話、給与水準をある程度「どんぶり勘定」的に引き上げてしまっても、経営上、さほど問題がないケースが多いのです。一方で、運送会社や製造業などは、粗利率が低く、加えてその原価にドライバーさんや工員さんの人件費が含まれるような業態であるため、給与を上げる判断はかなりシビアになってしまいます。給与アップがそのまま原価率の向上、すなわち粗利率の低下に直結するため、「どの程度給与を上げても利益的に問題がないのか?」ということをしっかりと見る必要があります。これからの時代は、ドライバーさんの待遇改善を常に進めていくことが重要になってきます。そうなってくると、給与制度の設計の際に「給与原資の配り方を変える」だけでなく「給与原資を増やす」という考えを組み込んでいかなければ、待遇改善は実現できません。この後者の「給与原資を増やす」ということを考えていくときに、まさに「トラック1台ごとの月々の収支」といった点を勘案することが非常に重要になってくるわけです。それを見ることで「あとどれくらい、ドライバーさんの給与を引き上げることができるか?」といったことが具体的にイメージできるようになってくるわけです。このドライバーさんの待遇改善にどう「トラック経営の見える化」を活かしていくのか?という点については、また後ほど【発展編】にて、少し説明をしていきたいと思います。6つ目の「これからの事業承継に使える」という点も、実はかなり重要です。前段にて、運送会社の経営実態はPLやBSだけでは掴めないという話をしました。にもかかわらず、一般的な事業承継の1つの形になりつつある、M&A仲介の市場においては、PLとBSをもとにした企業評価によって、その運送会社の価値がつけられます。もちろん、それは1つの側面としては正しいので、そこに文句をつけるわけではありません。でも、本当にそれだけで、自社を正しく見てくれるのであろうか?と問われると、答えは間違いなくNOだと思います。自分たちの会社を正しく見てもらうためにも、「トラック経営の見える化」を行うことは重要です。そして、M&A仲介などを用いた第三者承継ではなく、身内での事業承継においても同じくそれは重要です。一般的に、運送会社は売上2~3億円程度の会社であっても、数千万~1億円程度の借入があることが多いです。そんな会社を引き継ぐ息子さんや娘さん、あるいは社員さんは、どれだけの心の準備が必要でしょうか。安心して引き継ぐためにも、PLやBSという雲をつかむような状態だけでなく、正しく地に足のついた「トラック経営の見える化」による経営実態の把握があったほうがより良いでしょう。ある意味当たり前のことを言ったまでではあるかもしれませんが、これらが「トラック経営の見える化」、トラック運送会社の経営において、きっちりと「トラック」「ドライバー」「案件」という3つの軸で数字を捉えて、経営のコックピットを持つことの効用なのです。トラックを買ってから売るまでの「不動産経営」の観点も重要ここまで長々と書いてきた【導入編】の最後のおまけとして、「トラック運送会社の経営は不動産経営に近いはずである」という論を述べておきます。トラック運送会社によっては、トラックは購入してから4年で売ってどんどん新車を購入して回転させている、という会社もあれば、10年くらい乗って乗りつぶすという会社もあります。あるいは、新車は高すぎるから中古しか買わないで、自社で修理しながら使っていく、と決めて運用している会社にも先日出会いました。これは、運送業界の素人の僕からすると、ある意味、「不動産経営」のようにも見えました。物件を買って、賃貸経営をして、出口戦略で売却をする。これと同じことが、トラック運送会社の経営においても行われているように見えます。もちろん、トラックの場合は、故障したり、事故があったりするので、不動産よりも変動要素が大きく、一概に言えない部分もあるとは思います。ただ、トラックを「いくらで買って」「何年間運用して」「最終的にいくらで売るつもりなのか」という算段を持って経営をすることは、非常に重要なことに思えます。いわゆるROI(投資対効果)を「買ってから売るまでの長い目」で考えるということです。でも、新車のトラック価格が高騰しており、加えて中古の市場価格も高まっている今だからこそ、この考え方は非常に重要になってくると思います。例えば、2000万円で買ったトラックを、10年間で乗りつぶすと考えれば、年間の車両費用は2000万円÷10年間で、200万円となります。でも、2000万円で買ったトラックを、4年後に1000万円で売却すると考えて運用するとなると、(2000万円-1000万円)÷4年間で、年間250万円で新車に乗り続けることができるとも言えるわけです。もちろん、後者の選択は、会社に資金調達力がないとできなかったりもするので、どの会社も取れる選択肢ではないかもしれません。また、事故や故障があると、その計画が大きく崩れてしまう可能性もあるので、それがリスクとも言えるかもしれません。ただ、こういう観点で車両の取得戦略を考えるということも、重要になってくる時代だと思います。こうした考えを柔軟に持つことは、実は、対荷主さんにとっても響いてくることです。例えば、新車価格2000万円を4年で償却するから、年間500万円、月々40万円ちょっとの車両費用が原価としてかかっているとなれば、運賃はべらぼうに高いものになってしまいます。一方で、同じ車を10年間で運用する計画だとすれば、年間200万円、月々に直すと20万円弱の車両費用となり、先ほどの半分以下の数字になってきます。もちろん、前者の年間500万円の車両費用を見込んだ運賃を満額でいただければそんなにありがたいことはないと思います。ただ、実際の運賃交渉においては、この間の金額が落としどころとなって、車両費用を見込んだ交渉をすることになってくると思います。重要なことは、こうした幅を持って交渉ができるかできないかということで、それによって対荷主さんの説得力も大いに変わってくるのだと思います。さて、ここまでで【導入編】は終了です。ここからが本番の【原価計算編】です。長くなってきたのでここらで一休みを入れて、是非最後まで目を通していただけると嬉しいです。原価計算編そもそも「原価計算」ってどこからスタートすればいいの?いよいよ、最も気になるであろう本番に突入です。「トラック経営の見える化」が大事なことは分かった。では、そもそも「原価計算」って、どこからどのように手を付けていけばいいのだろうか?という核心に迫っていきたいと思います。結構これは実は難しくて、どのレベルでトラックごと集計項目トラック協会のやつって結構むずいよね…細かな話メンテナンス費用等の「ならし」の考え方車両売却益と車両運用期間の考え方重要なのは「1kmあたり変動費」と「1日あたり固定費」の算出1kmあたり変動費を出す1日あたり固定費を出す(1時間じゃなくてもいい理由、チャーター)発展編見える化を給与アップに活用するには利益の算出給与分配額の算出その上での利益の再計算(各種数値の調整)見える化を車両代替判断に活用するには利益の算出購入費用と運用年数、想定売却額の算出その上での利益の再計算(各種数値の調整)燃費やメンテナンス費用の基準値比較(劣化度の判断)荷主別収益の算出方法1kmあたり変動費と1日あたり(1時間あたり)固定費の算出案件データで振り分け(いつ、どの車両で、どの荷主)デジタコと紐づけ(距離)荷主別収支表の完成デイリー収支の算出方法1kmあたり変動費と1日あたり(1時間あたり)固定費の算出案件と紐づけ(いつ、どの車両で、どれだけの距離)デイリー収支表の完成