始まりました。社会インフラの横丁から。この番組は、社会の当たり前を支えてくれている人たちの声を、人情味あふれる六興村の隅っこにあるこの横丁からお届けするラジオです。 本日も温かいお話や苦労したお話、心に染み渡るお話、そしてこれからの未来につながるお話をお届けしてまいります。物流業界のDXを推進するスタートアップ、アセンド株式会社の日下瑞貴(くさか みずき)社長をゲストにお迎えした六興ラジオ。今回は、書き起こしその2をお届けします!▼書き起こしその1はコチラからhttps://note.com/rokkojitsugyo_65/n/n54ea42f5deab%3Ciframe%20data-testid%3D%22embed-iframe%22%20style%3D%22border-radius%3A12px%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fopen.spotify.com%2Fembed%2Fepisode%2F5UHy70GYP0eXjNGwB7KeJu%3Futm_source%3Dgenerator%22%20width%3D%22100%25%22%20height%3D%22352%22%20frameBorder%3D%220%22%20allowfullscreen%3D%22%22%20allow%3D%22autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20fullscreen%3B%20picture-in-picture%22%20loading%3D%22lazy%22%3E%3C%2Fiframe%3E「コードを書く以外は全部やる」覚悟のピボット段林: 何度も聞かれたことがあるかと思いますが……運送業界・物流業界で、アセンドさんは最初からフルパッケージで提供しようとされていましたよね。ビジネス感覚としては最も非合理的というか、一番しんどい選択だと思うんです。最初からそこに踏み込んでやり切ろうとされたのは、どういう意思決定だったのでしょうか?日下社長: まず、運送業という業態は非常にアセットが重く、かつサービスだけで差別化するのが難しい業態だと捉えています。だからこそ、「管理会計」が重要だと思っています。 この車があと何年で減価償却が終わるのか、この車とこのドライバーさんはどれぐらい走れるのか、修繕費がどれくらいかかっていて、ドライバーさんの労働時間がどれくらい余っているのか。そういったことをモニタリングしながら採算性を管理し、再投資をして、車の買い替えをしたり、従業員の給料を上げていく……こういうことを細かく続けていかなければいけない業界だと思っています。段林: はい。日下社長: しかし、運送業の管理会計の実質実施率は50%を切っていて、しかもその中身は精度が高くないという現状があります。なぜかというとデータもない。それならば、そこに対してしっかりとしたシステムの基盤を作り、管理会計の基礎を作っていくことが、この業界には根本的に必要だと、シンクタンクの時からずっと思っていました。 そういったサービスを作っていきたいなと思ったのが、一番最初のきっかけですね。段林: なるほど。それをやるためには、もうフルでやっていかないといけない。でもエンジニアではないと。日下社長: それは格好つけて言っていますけど、大変さが分かっていませんでした(笑)。「なんか作れるんじゃね?」と思ってたんです(笑)。段林: ちょっとノリでね(笑)。日下社長: そうそう。全然簡単じゃないとCTOにめちゃくちゃ怒られました(笑)。逆に知らなかったからできたのかもしれません。こんなに大変だとは思っていませんでした。段林: そうですよね。ちなみに、CTOの方、最初のメンバーはどういう仲間集めをされたんですか?日下社長: 起業は3人でしました。私と、小中学校の同級生だったエンジニアの増谷、そしてPwC時代の同僚の森です。 増谷は、もともとSIer出身だったので、そこまでコードを書いたことはなかったんです。でも、私もよくわかっていなくて、「東大出身だし、地頭良いしいけるだろう」みたいな(笑)。でもやってみたら全然うまくいかなくて。で、新日鐵の同期で一番優秀だった、うちのCTOの丹羽健が手伝ってくれるようになって、「このシステムはこれから持たないし、システムの拡張性を考えると絶対に早いタイミングで一から作り直したほうがいい」ということを、丹羽にプレゼンしてもらいました。当時、彼は業務委託で、なんのインセンティブもないのに、私にすごく丁寧に説明してくれました。そこで、営業を全て止めて、言語から含めて製品を一から作り直すという意思決定をしました。そしたら丹羽が、「じゃあ俺がやる」と言ってくれて、正式ジョインしてくれて、増谷と丹羽と副業のメンバーで一からシステムを作り直したのが、一番最初でしたね。段林: すごいですね。資金調達など、外部から集めながらやっている中で、痺れ度合いは結構あったんじゃないかと思いますが、そこはまた個別にお話しさせていただくとして……ちなみに先ほど、起業するときにお子さんがいたとおっしゃられましたが、ぶっちゃけそのあたりはどう考えられていましたか?日下社長: 正直あんまり考えてないです。授かり婚でした。起業することは決まっていて、当時増谷や森と集まって、「実は子供ができた。でも予定に変更はないので、心配しないでください」と話をしました。そうしたら「そりゃそうでしょ」と言われて(笑)。特に重く受け止められることもなく、進みました。 ちょうど嫁が里帰り出産をしていたので、その間に私の神楽坂の自宅に机を3つぶち込んで、勝手にオフィスにしていました。だから嫁が帰ってきたら、勝手に家族5人生活、みたいになっていました。段林: 住んでいるマンションがそのままオフィスに。すごいですね。じゃあ、夜泣きでみんな起きるみたいな。日下社長: そうです。ミルクを交互でやってもらったりとかしていました。段林: マジですか(笑)。社員さんが?日下社長: 社員が(笑)。僕は営業に行かなきゃいけないじゃないですか。1ヶ月に1度の健診がくると、増谷と嫁が家にいるわけですよ。増谷はコードを書いてるから、人が来ても応対しないわけです。そうすると、すごいネグレクトしている父親みたいに見えちゃって(笑)。増谷も気まずかったらしく、「実は私は旦那ではないんです」と説明をするという、訳の分からない出来事がありました(笑)。段林: それマジでやばいっすね(笑)。日下社長: もうめちゃくちゃでした(笑)。段林: その共同生活はいつまで続いたんですか?日下社長: シードの資金調達をするまでは家でやってたので、半年ちょっとぐらいかな。段林: マジか……。ちょっと震えてます(笑)。僕も子供ができた時に起業したので、同じ感じではあるんですが。日下社長: でも子供ができてから起業してよかったです。子供がいるのをデフォルトにして、どう仕事をしていくのかという思考ができたので、今うちの会社は既婚率と子育て率がすごく高いんです。段林: でもそれって、実際に社長にお子さんがいらっしゃるという安心感から、社員の方も……いわゆるスタートアップになると入りにくいかもしれないですけど、そこは安心感に繋がりますね。日下社長: そうですね。あと、自分自身やっぱ子育てを、もちろん負担が五分五分とまでは言えませんが、少し前の時代とか、あるいは自分が野村総研にいた時よりも、絶対に子育てできている自信があるんです。 段林: ある意味、コントロールできるというかね。日下社長: だから、最初からそういう社風にすればいいと思っています。ポール・グレアムの有名な言葉に「スタートアップというのは、家族で夕食を取り、夜遅くまで仕事をする仕事だ」というのがありますけれども、これはめちゃくちゃ同意で。 ミーティングなんて、子供が小さいうちは子供を見ながらできるわけです。子供が寝てから仕事をするとか、順繰り順繰りやればできるはずだと思っています。 確かに趣味の時間はなくなるかもしれないけど、仕事は高い次元で両立ができると思っていて。これは当時、「子供ができたんだから延期すべきだ」なんて言われました。でも、「本当か?」と。 だって、多くのサラリーマンは大体6時ぐらいから始まるプロ野球を見に行く時間があるはずなんですよ。その時間を子育てとか仕事に当てれば、できるはずだと思っていたのですが、やっぱりやってみたら実際できたという感じでしたね。★コラム:シリコンバレーの教父、ポール・グレアムの「夕食」論日下社長が「スタートアップは家族で夕食を取り……」という言葉の主は、世界屈指のアクセラレーター「Y Combinator」の創設者、ポール・グレアムです。彼はエッセイの中で、初期のスタートアップに必要なのは「没頭」と「生活と仕事の融合」であり、共同創業者は家族のような親密さを持つべきだと説いています。 日下社長が行った「0歳児とエンジニアが同居し、社長が3食作る」というカオスな自宅合宿は、シリコンバレー的な成功法則に照らし合わせれば、極めて理にかなった(そして最も強固なチームを作るための)合理的選択だったと言えます。段林: いやあ、すごい。日下社長: だからハードワークしてはいますが、子供と向き合う時間を全て蔑ろにしているなんてことは全くないと自信を持って言えます。これは、うちの社員全体にも、同じようにしてほしいと思っています。段林: かっこいいですね。日下社長: これはもう思想ですよ。 段林: 起業って、特に日下さんみたいな哲学的に会社を作ろうと思うと、日本全体を豊かにしていくという思想は必ず根底にあると思うんです。そういう思想がある中で、しっかり自分たちが次の世代を生み育てるということを守っていかないと、実はその思想に相反するものだと思うんです。そういう意味でも、そういう社風作りって結構大事ですよね。日下社長: そうですね。特に物流はなおさらそうだと思うんです。物流のない社会なんてないじゃないですか。物流業界って、みなさんいろんな犠牲を払ってお仕事されていると思っています。それをフェアにするっていうことは、物流に関わるステークホルダーの皆さんにとって「三方よし」にならなきゃいけないと思っています。うちもそうだし、お客さんもそうなってほしいなと思ってます。アセンド食堂と「同じ釜の飯」段林: ちなみに先ほど、スタートアップというのは、「家族で夕食を取り…」という言葉が出てきましたが、僕が気になる御社の社風に、「アセンド食堂」というのがあります。まさにそれはその「そこに準えて誕生したんですか?どういうきっかけだったのでしょう?日下社長: 創業当初やっていたのは一緒に住んでるから、一緒に飯食わざるを得ないという(笑)。「コードを書く」こと以外は全て自分でやると決めていたので、登記とか、郵便を出すとか、銀行に行くとか、税務署に行くとかも全部自分でやってましたし、ホームページを作ることもやっていました。 その中で、夜遅くまで仕事をしてほしいしコードに集中してほしいから、「飯作るよ」と言って作っていたのが一番最初ですね。 段林: じゃあ、アセンド食堂の始まりは、社長自身であるという。日下社長: そうです。やっぱりみんなで食うとおいしいし、CTOの丹羽も料理が好きだったりとかもあって。その後もずっとマンションオフィスだったので、それをずっと続けていたんですよ。 だんだんそれが社風になっていって、みんなで晩飯食べてから、「スタートアップなんだからもう1セット、2セット仕事していきましょう」みたいにやっているのが、だんだんカルチャーに残っていって。 こうやって一定、会社が大きくなっても、キッチンを作って、みんなで食事を食べましょうというのは、結果としてやっぱすごいいいカルチャーになったなと思っていますね。★コラム:キッチンはオフィスの心臓部。「アセンド食堂」の現在地創業期の「日下社長の手料理」から始まった食の文化は、現在も「アセンド食堂」として継承されています。 アセンド社のオフィスには、業務用の本格的なキッチンが備え付けられており、社員が自ら料理を作ったり、外部の料理家を招いたりして、温かい食事を共にしています。IT企業でありながら、PC画面上のコミュニケーション(Slackなど)だけに頼らず、「同じ釜の飯を食う」という原始的かつ強力なチームビルディングを制度化している点は非常にユニークです。段林: いいですね。僕らはフルリモートなんで、憧れます。日下社長: でも、月に1回とか年に何回とか、集まった時にみんなで料理を作ったら、盛り上がると思いますよ。やっぱりみんなで手作りして、同じ釜の飯食ってというのは一番美味しいし、心身ともに健康になるなと思いますね。 入社してから太るって、みんなに文句を言われますけど(笑)。段林: でも、ランニングもされてるじゃないですか。あれもすごいなと思って。 僕も会社を作ってから15kgぐらい太りました(笑)。日下社長: 聞きました(笑)。でも僕も会社を始めてから7kgぐらい太りましたよ。段林: それでも運動も社員さんとされているのを拝見して、素敵だなあって。実はこの収録、20分の想定でしたが、今見たら30分経っています。ノンカットであと5分ぐらい行きます(笑)。「物流」ではなく「運送」へのこだわり段林: ちなみに先ほど「運送じゃなくて物流」という言葉がありましたが、これは僕は逆で、「物流じゃなくて運送」だと思って会社をやってるんです。正直言うと、物流になった途端話がかなり複雑になります。六興実業としては、意図的に「運送」をキーワードとして使っています。それはアセンドさんとは全く逆で、関わる姿勢がそこに現れているなと思いました。物流業界全体の話になるからこそ、いろんな業界のルールメイキングにも取り組まれている。やっぱりそこから入っていこうということになるわけですよね。日下社長: そうですね。入っていこうというか、やらされ仕事で断れないというのが、実際のところですけどね。段林: またまた。そんなふうに言ってみたいです(笑)。日下社長: いやいや(笑)。だってあれはほとんど全てノーギャラですから。段林: お声がかかるだけでもすごいです。日下社長: ありがたいことですけどね。でもおっしゃっていただいた通り、当社も当然軸足は運送業に置いてはいるものの、運送の問題は運送だけで解決できないことも多いじゃないですか。荷主さんの荷待ちの問題や商慣行の問題がすごく影響してくるとなった時に、そちらのルールや慣行を適正化しない限り、いくら運送業界だけで頑張ってもダメな部分があると思います。そうなった時に、いろんな会に呼んでいただけるのであれば、自分のできることならOKしますというスタンスでやっています。そうやっていると、あれもこれもとやらされることになっています。段林: 少しだけ踏み込んだ話をさせてもらうと、アセンドさんを見ていて気になったことがあるんです。いま取り組まれている運送のDXと、広告・集客の際に運営されている「CLO(Chief Logistics Officer)」の取り組み。この2つが、中から見るとあまり紐づいていないように見えて、不思議だなと思っていました。あれはどういう位置づけなんですか?日下社長: 2つあって、まず一つは「将来紐付けます」ということですね(笑)。段林: 将来の種まきだなと思うんですが、現時点の事業ストーリーで言うと、正直まったく紐付かないように見えるんですよ。日下社長: 実は「将来紐付けばいいな」と思っている一方で、今やらなければいけない理由があるんです。というのも、当社が日本で初めて「物流統括管理者」の調査事業を担当させていただいた経緯があります。これはシステム事業とは別軸で、コンサルティング事業として取り組んできたものです。CLOの制度が変わり、マーケットが形成されると言われていますが、今「3200社がCLOを選任する」とされる中で、実際に3200人のCLOが存在するわけではありません。 私は、このCLOという役割は、多くの場合、運送会社や物流業界の人たちが“実体機能を代替するべきなのではないか”と考えています。段林: なるほど。日下社長:CLOマーケットやその権能が明らかになれば、運送業・物流業として貢献できる余地は将来的にもっと増えるはずです。そうした未来を見据えつつ、CLOや物流業界が盛り上がってほしいという思いもあって、知見提供やカンファレンスの開催を続けています。そんな流れですね。段林: 一応補足すると、CLOは「チーフ・ロジスティクス・オフィサー」のことですね。本来は荷主側が専任しなければいけない流れになっているものです。つまり、アセンドさんの現在の主要顧客である「運送会社」とは本来違う領域。ただ、そこに将来向けて投資されているということですね。すごく合点がいきましたし、その通りだなと思いました。日下社長:すごく嬉しいですね。段林: すごく平たく言うと、「火事場泥棒」的なビジネスってあるじゃないですか。例えば、人手不足や後継者不足といった“不足”に対して、火事場泥棒的に参入するビジネスなど。でも、それって本当に業界のためになるのかと疑問で、マーケットのお金が仲介会社やホワイトカラー企業に流れていくだけというのは、個人的に違和感がありますし、そういう仕事はしたくないなと思います。今のお話を聞いて、アセンドさんの取り組みの姿勢は本当に尊敬しています。日下社長: そこは私もすごく共感します。スタートアップは「世の中にないものを作る」ことを期待されています。だから、今ある不合理をそのまま解くのではなく、一番いい形は何なのかを考えて、新しい形に作り替えていく方が面白いと思うんですよね。それがすぐにお金になるか、時間軸はどうか、というのは一旦置いておくとして。段林: そうですね。日下社長: でも、それを言い訳にするのはダサいので、商売は商売としてちゃんと勝ちにいきたいとも思っています。段林: すごいですね……! 今日は本当に楽しかったです。日下社長: 私もすごく楽しかったです。段林: もっと聞きたいこともあるんですが、さすがに時間も時間ですし、ここから先はちょっとディープになりすぎるので一旦ここまでが前半です。後半は、運送業・物流業の中でどんな取り組みをしているのか、といったディスカッションできればと思います。あとは「素敵な運送会社さんがあったな」という話など、そういう談義ができたら嬉しいですね。日下社長: 分かりました。引き続きよろしくお願いします。段林: 今日はありがとうございました。日下社長: ありがとうございました。▼前回のエピソードはコチラ👇https://www.rokko-jitsugyo.co.jp/news/PIIbIXJm▼六興ラジオ【社会インフラの横丁から】シリーズはコチラ👇https://www.rokko-jitsugyo.co.jp/news/category/rokko-radio